環境リモートセンシング概論2022
(近藤担当)
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人間と生態系を取り巻き、相互作用する対象である環境と、その観測手段であるリモートセンシング、解析の方法である地理情報システムの基礎的事項に関する講義を行います。ただし、環境リモートセンシングは環境(対象)とリモートセンシング・地理情報解析(手段)の二つを同時に扱うことによって、環境の理解を深め、最終的に課題解決をめざす学問分野です。学問として体系をめざすというより、個別事例に関する知識、経験を集積することにより総合力を高めていく分野です。ここでは“環境”の理解を重視し、様々な対象について話をしたいと思います。
講義の進め方
理学部4号館1階マルチメディア教室における対面講義として実施しますが、テキストベース・オンデマンド型メディア講義(本ページ)の形式でも勉強することができます(近藤担当分のみ)。このページはいつでも閲覧できますが、Moodle2022で課題を出しますので、近藤まで送ってください。課題が多すぎるという批判も聞こえてきますが、少しでも学生との“化学反応”を起こしたいという思いですので、気軽に課題に取り組んでください。私もこのページでコメントを出します。大学の講義、特に環境に関わる講義では“考える”ということを重視したいと考えています。それは、答えがない、あるいは答えは諒解でしかない問題を理解する力を大学で身に付けてほしいからです。今、私たちは歴史に立ち会っています。新型コロナ禍に対処するための答えを自分ではない誰かに求めるのではなく、自分で考え、納得し、行動する姿勢を身に付けてください。
実施日 | 担当 | タイトル | 課題提出日 |
5月16日 | 近藤 | 環境のリモートセンシング 自然地理学入門 |
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--- | 近藤 | 地域の環境学入門 (1)水循環と暮らし |
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--- | 近藤 | 地域の環境学入門 (2)地形の成り立ちと暮らし |
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(メディア授業) | 近藤 | 地域の環境学入門 (3)世界の諸地域の暮らし(予定) |
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5月16日、23日、30日が近藤の担当日ですが、講義資料を中心に様々な話をしたいと思います。それは「環境」をどう理解するのか、この「環境」の中でどのように生きていくのか、ということを関わる話になると思います。一方的に受け入れるということではなく、近藤の話を批判的に聞いてください。自分の考え方と異なると考えたら、発言してください。なぜ、考え方が異なるのか、を考えるところから.人、自然、社会の関係性が見えてくると思います。
教科書
留学生向けの勉強のガイドラインを示すために下記の教科書を一部取り入れていますが、購入は任意です。その他の教科書も担当教員が講義中に推薦するので参考にしてください(古い記述)。最近は自然地理学の教科書が増えてきました。講義中に紹介します。背景には2022年度から高校で「地理総合」が必履修化されたことがあります。
Introducing
Physical Geography Alan H. Strahler
近藤担当分の資料(以下修正中です。時々修正があります。昨年度までの記述が残っている場合がありますので注意してください。)
まず最初に環境についてお話しします。環境は自然ではないし、単なる周囲でもありません。人と自然が相互作用する範囲で、地域からグローバルまでいくつかのスケールで環境を捉えることができます。そこには様々な要素があり、それぞれ関係し合っています。その関係は物理的なものだけではなく、政治、経済、人種、宗教、...様々なリンク(環境社会学から出た用語です)があります。このリンクの構造を空間的、時間的に明らかにすることが地理学の目的の一つであり、“環境学”(まだ体系はない)のベースなると考えています。これが解らないと、リモートセンシングで“見えた”ことの意味が理解できないのです。
課題1 これは過年度の課題です。参考にしてください。
あなたが“環境問題”と認識している事象をひとつ選択し、その歴史的背景、原因について簡単に記述してください。別の表現をすると、その事象の要因となるリンク(関係性)のネットワークについて記述してください、となります。提出して頂いた内容に基づいてメディア講義で深掘りしたいと思います。
課題に対する回答は、「私は〜思う」だけではなく、「私は〜考える。なぜなら〜(という論理的に確からしい理由がある)から」という形式で記述してください。前者はスペキュレーションと呼ばれているものですが、後者は仮説を提出したことになります。この考え方をマスターしておくと卒論を書くときに役に立つと思います。
これは評価のためのテストではありません。地理学的考え方を習得するための演習です。
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講義資料の前半は、地球環境とリモートセンシング 環境リモートセンシング(T)と共通です。ここにもコメントを載せてありますから、読んでください。“環境学”は答えがひとつではない問題、あるいは答えは諒解でしかない問題、を扱います。自分で考え、行動しなければ先に進めなくなるかも知れません。そんな精神的習慣を大学で身につけてほしいと思います。
環境リモートセンシングとは、環境とリモートセンシングの両方の知識、技術、経験を持って人と自然の関係性に関する問題、すなわち環境問題の理解と解決を試みる学問の分野です。その重要な対象として水循環がありますが、水文学Tが休講中であるため、皆さんにお伝えすることができませんが、社会において必要な知識としてここでお話ししたいと思います。地球のことを良く知ると、リモートセンシングで何を見たら良いかが分かるはずです。
水循環のリモートセンシングは地球環境変化の研究でも重要な分野と認識されています。水循環を記述する微分方程式の各パラメーターをリモートセンシングから得て、モデルにより水循環を理解する方法もあり、地球環境研究分野では主流の考え方ともいえます。しかし、現場の問題を扱う分野では、水循環の本質を現場の様々な特性から経験的知識を用いて理解を試み、実践に役立てる力を持たなければなりません。日本は縮退社会の入り口にいます。科学のための科学も重要ですが、これからは社会のための科学をもっと強化しなければならないと考えています。そのような時代では地域ごとに考え、理解する地理学的視点が重要いなります。
設問2 過年度の課題ですので、参考にしてください。課題はMoodle22に設定します。
4月19日はようやく「地理学」まで到達しました。地理学が環境学であることを知れば、後は自分で勉強することができるはずです。近藤は「環境」を理解し、課題解決の力を醸成できる(かも知れない)話題を提供しました。直ちに受け入れる必要はありません。まず、自分で考えてください。
さて、現代の日本において科学と社会の関係は良好だと思いますか。あるいは、問題があると考えますか。問題があるとしたら何が問題なのでしょうか。自由に記述してください。
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設問3 これも過年度の課題。
最近、水害が頻発していますが、私たちはどのように水害に対応したら良いのでしょうか。基本的な考え方はずっとあったのですが、実施が困難であった政策が再び脚光を浴びています。それが「流域治水」です。かつては総合治水ともいいました。流域治水とは何でしょうか。その神髄は何でしょうか。WEBにも情報はたくさんありますので、調べて考えて見てください。
なお、流域治水の先進県は滋賀県です。また国交省でも流域治水プロジェクトが始まりましたが、国交省の考え方がすべてではありません。
地域全体で治水に取り組むためにはどうしたら良いのか。みなさんの考え方をお聞かせください。
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関連情報
その他のキーワード、「グリーン・インフラストラクチャー」、「EcoDRR」、「国土形成計画」、「環境基本計画」、など。調べて見よう。
地形にはそれを形成した営力があります。その営力は地形を見るとわかります。その場に人がいたら、暮らしがあったら、...災害になります。 安心して地域で暮らし続けるためには、自らの暮らす土地の性質を知る必要があります。
この写真を見てください。 何を読み取ることができるでしょうか。地形は非常になだらかですね。なだらかな地形はどういうところに形成されるでしょうか。その候補の一つは花崗岩地域です(なぜか、は調べてください)。植生は何ですか。初夏の写真なのでわかりにくいかも知れませんが、落葉広葉樹です(落葉広葉樹が分布する地域の特徴は何か)。伐採されているところもあり、作業道も見えます。落葉広葉樹林が高度に利用されていることもわかります(里山としての新しい平衡状態といえます)。これだけでも東北地方の阿武隈か北上だなということが推定できます。ここは福島県伊達郡川俣町山木屋地区です。なだらかな地形を利用した牧草地や畑があります。そこではかつて牧畜や葉たばこの栽培が行われていました。落葉広葉樹林は山菜や茸を採るだけでなく、落葉は葉たばこの品質を高めるためにも利用されていました。また、ここは落葉樹を使った椎茸の“ほだ木”の供給地でした。なだらかな地形には谷は深く刻まれていません。それは降水が地下水でゆっくり排水されるということを意味しています。広い低地が見えますが、ここはかつて水田が広がっていたところです。昔は湿田で、稲作が大変だったという話を聞いたことがありますが、なだらかな花崗岩山地の特徴でもあります。ここは“やませ”による冷害の常襲地でもあり、昔は大変な苦労があったのですが、70年代以降の圃場整備により町内でも最も米の収穫量が多い地区になりました。一枚の写真から自然の特性、人と自然の関わりをたくさん読み取ることができます。この知識、経験を元にリモートセンシング画像を判読する技能を身につけてほしいと思います。それが“環境リモートセンシング”です。
空中写真判読の技術(それはリモートセンシングの技術でもある)は、日本がアメリカの占領から独立し、自由に空中写真撮影ができるようになった1960年頃から発展し、いくつかの名著が出ていますが、その後、世の中のデジタル化が進むと衰退します。それによって人と自然の分断が助長され、人の自然を理解する力は衰えたと考えられます。データを解析すれば答えが出るわけではないのです。このような状況を憂う技術者により、最近、地形判読に関する経験的技術の見直しが進んでいます。代表的な著書を紹介しましたが、これ以外にも活断層、斜面災害、河川地形等の分野で優れた教科書があります。リモートセンシングを活用するための、前提となる知識です。答えを出すのは人間であり、コンピューターではないのです。
地形学の碩学、鈴木隆介先生の経験邸知識、技能といってもよいと思いますが、その集大成です。
この辺りから入門するとよいと思います。上級編も出ています。
設問
この項目はオンデマンド講義とします。.質問はいつでもどうぞ。
乾燥・半乾燥地域の環境問題は、砂漠化対処条約(1994年)を日本が1998年に批准したことにより、日本も責任を持って取り組むべき課題となりました。日本にはない環境ですが、 世界の半分を占める環境です。一方、熱帯雨林では何が起きているのでしょうか。自分と関わりのないと思っていた場所で森林が伐採されていることの意味を知れば、自分の生き様を考えることもできるようになります。
ここはオンデマンド型講義とします。 環境問題を理解するということのベースには“世界の有様”を“包括的”に捉えるという態度があります。その重要な視点に地域の理解があります。ここでは乾燥地域と湿潤地域という観点から資料を用意しました。地域を理解した後は、あらゆる要素を抽出し、それらの関係性(リンク)を明らかにするという視点が必要です。リンクは“物理”だけではなく、宗教、人種、民族、経済、あらゆる観点が存在します。一人の人間の能力は限られているため、“包括的”を実現しようとすると、それは“協働”にならざるを得ないと思います。それがSDGsのPartnership、Future EarthのTransdisciplinarity だと認識しています。地球科学の学生としては、世界の地域の特徴を知る、ということをベースラインとして環境に取り組んでほしいと思います。
設問
この項目は自習してください。環境学や地理学の重要な目的は世界の有様を包括的、総合的、網羅的に理解することだと思います。 世界を構成する様々な要素を認識し、その間の関係性(リンク)を見つけることにより、解くべき問題の本質を知ることができます。新型コロナ禍は、この包括的な視点の重要性を改めて認識させてくれます。ポストコロナの社会について議論が始まっていますが、包括的な視点を身に付け、いろいろな主張の背景を知ることにより、自分の考え方を確立させることができるでしょう。
コメント
質問を頂ければ私の意見をここに記述したいと思います。7月13日のJpGU緊急セッションで、「ポストコロナ社会と地球人間圏科学」と題して講演を行う予定です。あと一月ですが、考え続ける予定です。皆さんも歴史の体験者として考え続けてください。
おわりに
(終わってから書きます)
レビューシートから(講義1の2019年度分が記載されています。参考にしてください。)
科学者でしたら、科学史、科学論、科学思想、といったものは必ず 関心を持ち、自分の考え方を確立させておかなければならないと考えています。科学は真理の探究で、それだけで価値があり、科学者が論文を纏めれば、自分ではない誰かが、その成果を社会に役立てるのである、という言説は高度経済成長期の慣性ではないかと思います。現在は、社会の中の、社会のための科学を考えなければならない時代です。だから、SDGsやFuture Earthが出てきたのです。この目標を達成するには、世界、地球、社会に対する深い洞察が必要になります。考え続ける態度が必要です。簡単に自分の考え方ができて、まわりが認めてくれるわけではないですが、"苦しんでください"、というのが近藤からのアドバイスです。
これは重要な質問です。地球温暖化が起きていることはすでに国際的なコンセンサスは得られています。温室効果ガス気体の濃度が高まっている現状で、温暖化は物理で考えれば否定などできないでしょう。地球温暖化研究は物理の研究ですが、地球温暖化を "問題"として捉える時には、温暖化現象の時間スケールが長いため予防原則(これ自身も様々な考え方があるので、勉強してください)で対応しなければなりません。緩和策と適応策の双方を考えなければなりませんが、近藤はこう考えます。温暖化によって激甚化する(現在すでにある)ハザードを想定します。そのハザードがディザスターになる要因を特定しようとすると、たくさん出てくるでしょう。温暖化は要因の一つとして相対化されます。現在の問題を解決する努力をすれば、それは結果的に温暖化に対して強い社会になり、温暖化を抑制することにもなるでしょう。それは未来を創ることにもなります。直接的な対策としては、炭素の放出を抑制することです。大きな事業所における排出を抑制しよう(例えば、大型石炭火力)、プラスチックを燃やさないようにしよう(使用量を減らそう)、こういった活動に積極的に参加することは自分の生き方、自分が暮らす社会のあり方を見直すことにもつながります。
環境研究は一人や閉じたグループでできるものではありません。様々な研究分野、ステークホルダーと共同、協働する必要があります。だから、Future Earthが立案され、Transdisciplinarity(超学際)が 基本的な方法論として出てきたわけです。"問題を共有"するこれまでのやり方は、デスクトップサイエンティスト、フィールドサイエンティストが個別に研究を行い、個別に発表をしてきました。これでは環境問題は解けません。そこで、"問題の解決を共有"する考え方としてTransdisciplinarityが出てきたのです。協働すること。これが君の人生を変えます。
地球温暖化の対策には緩和策と適応策があります。IPCCレポートや解説書を勉強するといろいろわかりますよ。人間の身体を高温に適応させることは考えられませんが、社会を適応させていくことはできると思います。 例えば、温暖化により超過降雨が増大し、水害の危険性が高まる、という懸念に対しては、なぜ水害が発生するか、その要因を考えてみてください。水害は河道の近傍で発生します。なぜ、そこに人が居るのか。地域計画という観点から水害の脅威に対応することができるかも知れません。温暖化で増えると予想される危機がなぜ起きるのか、包括的な視点から要因を考えてみよう。そして、現在対応可能な策を考えてみませんか。
それは現在の日本社会においてニュースバリューが高くないから。それは、なぜだろうか。私は人の"意識世界"ということを考えます。人が関係性を持ち、考え方を作り上げる範囲と考えていますが、 現代社会ではその広がりが狭くなってしまっている。だから、遠隔地で起きている現象は、劇場型イベントとなってしまい、テレビやパソコンの電源を切ると、意識から遠ざかってしまう。こんなことがあるのではないかと思います。意識世界を広げること、これが大学で勉強する目的の一つです。同じ地球の片隅には血を流している人々がいるのです。そのことを"わがこと化"できるようになってください。
興味を持って頂きありがとうございます。 仏教に限らず、キリスト教もイスラム教も哲学としての側面を持っています。原始仏教は、いかに生きるべきか、ということをお釈迦様が考え抜いた結果がお弟子さんによって纏められたものです。日本に伝わる過程で、ヒンドゥー教や道教の影響を受けて、宗教色がついたのかなと考えています。現在日本では仏教は葬式、お墓といったイメージがありますが、それは江戸時代の戸籍である檀家制度によるものです。日本に仏教が伝わった当時の寺は学問所でした。仏教の教えは私にとってなんとなくほっとする内容をたくさん含んでいます。それはアジアの自然や人の営みの中で培われてきたものだからかも知れません。学生の皆さんには、仏教というよりも、まず我々が暮らすアジアの特徴を知ってほしいと思います。この夏休みに和辻哲郎の「風土」に挑戦してみてはいかがでしょうか。
質問の趣旨からは少し離れるかも知れません。人と自然の関係が良好とはどういうことだろうか。その考え方は様々かも知れません。しかし、自分の考え方を持つということが大切です。自分の未来に対して、誰かが正解を教えてくれる訳ではないからです。 まず幸せな社会とは何かというところから考えて見てはいかがでしょうか。下記は"ゆたかな社会"というコンテクストからの記述です。なんとなくわかってきませんか。
内山節(哲学者)の著書から
@自然の恵みを受けられなくなる社会をつくってはいけない。
A農業をはじめとする一次産業が滅ぶような社会をつくってはいけない。
B手仕事の世界は残さなければならない。
C暮らしをつくる労働を残す必要がある。
D人間は常に共同性の世界を必要とし、そうである以上、共同性の世界はつねに再創造されつづけなければならない。
小田切徳美(明治大学教授、農村計画学)の言葉
安心して楽しく、少し豊かに、誇りを持って生きることができる社会
宇沢弘文「社会的共通資本」の序章から
(1)美しい、ゆたかな自然環境が安定的、持続的に維持されている。
(2)快適で、清潔な生活を営むことができるような住居と生活的、文化的環境が用意されている。
(3)すべての子どもたちが、それぞれのもっている多様な資質と能力をできるだけ伸ばし、発展させ、調和のとれた社会的人間として成長しうる学校教育制度が用意されている。
(4)疾病、生涯にさいして、そのときどきにおける最高水準の医療サービスを受けることができる。
(5)さまざまな希少資源が、以上の目的を達成するためにもっとも効率的、かつ衡平に配分されるような経済的、社会的制度が整備されている。
注)記述は見直すかも知れません。質問は近藤まで。