地球環境科学専攻講義2022(近藤担当)
オンデマンド型テキストベース講義の資料です。質問、意見・異見は近藤までメールで送ってください。このページで回答します。
連番 | 実施日 | 担当 | 題目 |
@ | 6/17 | 近藤 | 地球人間圏リモートセンシング 環境に関する基本的な考え方 |
おまけ | --- | 近藤 | 地球人間圏リモートセンシング 災害に役立つリモートセンシングとは |
近藤第1講 地球人間圏のリモートセンシングの考え方−私論− (テキストベース講義)
地球人間圏科学とは日本地球惑星科学連合発足時のセクションとして登場し、その後、市民権を得てきた分野です。日本学術会議の地球惑星科学委員会に地球・人間圏科学分科会という組織がありますが、それと対応しています。学術会議の改編にあたり、地学・地理系の分野が地球惑星科学の名称の元に集合し、その中で地理系は地球人間圏科学としてその所掌範囲を広げ、活動を始めたわけです。昨今は名前を変えただけで、中身が変わらない組織、分野も多くありますが、地球人間圏科学は従来の地理学を包含しながら、異分野との融合も進め、政策提言まで含めた広い視野を持つことになったといえるだろう。地理学は人と自然の関係学であり、時間軸では人類の誕生から現在を通じて、未来までも扱い、空間的には地点、地域から地球全体までを扱う。地理学も地球人間圏科学も環境学といって良いだろう。 では、環境のリモートセンシングはどうあるべきか。講義の中で皆さんと対話したいと思います。
[参考文献・キーワード・リンク]
(2019年12月16日に開催された学術会議公開シンポジウム「地球システムと私たちの生活−人新世時代の想像力U」で表記の講演を行いました。その内容を再掲します)
リモートセンシングがSDGsの達成に貢献するためには、どうすればよいのでしょうか。まず、“世界”について理解しなければなりません。世界はたくさんのローカルが 、様々な関係性(リンク)によって相互作用しながら、成り立っています。ローカル、地域、グローバルの間には複雑なリンクの構造があり、ローカルがグローバルに影響を与えることもあります。
このような世界を捉えるに、リモートセンシングの特性である空間性、時間(歴史)性を活用することができます。それは、世界各地のローカルな土地利用・土地被覆変化(LUCC)を理解することです。しかし、世界には多様なLUCCがあり、研究の成果は膨大な数に上るでしょう。そこで、それを集積するデータセンターが必要になります。さらに、それらのデータを比較したり、メタ解析する統合センターが必要です。この統合センターが機能すると、個々のLUCCの成果から、より上位の課題、例えば「近代文明のあり方」、といったトップレベルの課題にもアプローチすることができるようになります。これこそがローカルとグローバルを繋ぐ考え方といって良いでしょう。
この考え方は、学術会議の大型研究マスタープラン2020の課題63 「アジアにおける陸域システムと土地利用の持続可能性向上に向けた総合的研究」の考え方に基づいています。この研究課題は物理や数学のような従来型の一本道の科学ではなく、様々な地域の経験を統合して、よりよい世界を創りあげるための“新しい科学”といえます。 それは Land System Science の実現のひとつの方法といえるでしょう。
課題
●ここは過年度の課題です。2022年度はMoodle22で課題を出します。。
●ここ数年の災害の頻発、特に水害は皆さんの記憶に新しいと思います。そこで国土交通省は“流域治水”の政策を打ち出しています。最近のテレビ番組や新聞等で目にしていると思います。その中で、災害の可能性がある土地には住んではいけない、という主張も聞こえてきます。流域の中には様々な利害関係があります。住民(あなたかも知れません)が、流域における様々な利害を超えて、納得、諒解して暮らすための方策についてあなたはどう考えますか。どのような社会になれば流域治水は達成できると考えますか。この問いには答えはありません。あなたたちの世代が創り上げていく課題です。自立的に考える習慣を身に付けてください。
提出先・期限:⇒Moodle22参照。
質問票から(2019年分です。ここは2022年に更新予定)
質問を見て、ざっと書き下ろします。異論もあると思いますが、その際は議論をぶつけてください。欧米の大学では必ず科学論の講義を履修すると聞いていますが、日本ではあまり行われていないようです。大学院生活の最初にこんな話を聞いても良いと思います。院生ですから、受け入れるのではなく、一旦受け止めて再考するという習慣を持つように勉めてください。
広辞苑で世界をひくと様々な意味があります。皆さんはA地球上の人間社会のすべて、という意味で捉えていると思います。私は物理的世界だけではなく、意識の中の世界も重視したいと思います。世界地図の上で世界を捉えても、経験がない地域は“わがこと化”して理解することはできない。地図から目を離すと消えてしまいます。私の意味する“世界”は体験によって個人の中に形成されていく“わがこと化”された世界です。これが人の考え方に大きな影響を与えています。こういう“世界”をどう呼んだら良いのか、ほかに良い呼び方があったら教えてください。
質問を頂いていてから“世界”についてきちんと説明しなければいけないと、気になっていましたが、「内山節のローカリズム言論 新しい共同体をデザインする」(農文協)の中で良い表現を見つけました。「人間やその主体を個人という概念でとらえるのではなく、関係のなかに人間をとらえる、関係のなかに主体をとらえるということ」。「私は私が作り出している関係の総和」という存在(139ページを見てください)。だから、私(あなた)の“世界”を伝えるためには、私(あなた)がどんな関係性の中で暮らしているか、をていねいに伝えればよい。“世界”とは個人が持つ関係性の総和としてとらえることができる。皆さんは先生方がどういう“世界”を前提に話をしているか、そんなことを考えながら講義を聴いてください。
歴史的にみて、科学と技術は一体不可分で、分けて考える必要はないと考えます。科学・技術とする主張は、好奇心に駆動された科学者の真理に対する欲求を重視しすぎているように思います。科学と科学技術とすればよいというのが私の考え方です。リモートセンシングは技術に違いありません。科学技術の成果としてリモートセンシングがありますが、その原理は科学の成果が生きています。人のモチベーションによって科学と技術に分ける必要はないのではないかな。
その通りです。私は地域を重視しますが、科学者として地域の成果を“グローバル”の視点の中に位置づけることが重要だと主張しています。講義資料の今回話せなかった部分を見てください。地域の社会運動家は、その地域が一番大切なわけですが、私は科学者、研究者ですので全体の中に部分を位置づけるという行為を自分の研究の一環として考えています。少し古くなりましたが、ここを見てください。
環境とは人あるいは生態系と相互作用する外界ですので、人のいない環境はないと考えます。広辞苑の@巡り囲む区域、の意味で使うにはあまりにもつまらないと思いませんか。環境と類似の言葉に“風土”があります。自然だけではなく、人の生業、歴史、文化等も取り込んだ概念で、こちらの方がよいかなという気もしています。
そうですね。複雑なものを複雑なものとして捉え、問題の本質に迫りたいというのが私の考え方です。理想化(単純化)して決着させようというのは政治の仕事かも知れません。単純化する際に、対象との間で心が通じなくなることもある。これが科学的な態度だとすると、あまりにも寂しい。
リモートセンシングは離れた場所から対象を判別したり、状態を計測する技術です。GISは位置と属性を持つ地理情報を解析するツールです。
人がいて、相互作用すれば環境。人がいなければそこには自然があるだけ。
なかなか深い質問です。“研究”であれば大学の教員としての生業であり、道楽であると答えましょう。道楽とは朝日新聞の科学担当記者が評論で使った言葉。研究者の道楽を世に認めさせるために、研究者はもっと努力せよ、ということです。科学(Science)とは人の幸せ(Human welfare)のためにあるというのが世界のサイエンティストの合意です。私もその実現のために微力を尽くしたい、そういうものが私にとっての科学です。最近、科学が役に立つための道筋が十分説明されていないという指摘が科学ジャーナリズムで指摘されることが多くなってきました。特に東日本大震災後。科学者としての私の選択は地域に入るということです。そこで、問題の解決を共有した協働の枠組みの中で科学の役割を果たすということを目標としています。関係性の中で役割を果たすということです。その際、(狭義の)科学の役割はどんどん相対化されます。若い研究者にとってはつらいことかも知れません。元気を出して真理の探究に突き進んでもらいたいと思いますが、ここで話したことも頭の片隅に置いておいて頂けると将来役に立つこともあると思います。というのも、現在は“〜であることになったか”社会。原発の問題では、安全かどうか、ではなく安全ということになったかどうか、ということに膨大な労力が使われてきたということが明らかになりつつあります。研究の世界も同じ。優れているか、というより優れているということになったかどうか、に労力がつぎ込まれる。このような精神的習慣の中で育った若手研究者が自立しようとするとき、大きな壁に突き当たります(大プロジェクトに参加している若者はこれを読んで「研究」と「研究事業」を区別できるように)。ここを乗り越えるためにも、科学とは何か、環境とは何か、科学者の役割は何か、考え続けてほしいと思います。
災害が発生すると、大抵専門家である研究者が出てきて、ハザードのメカニズムについて解説する。 それも研究者の大切な仕事ではあるが、災害発生前に、そうならないようにすることはできないのだろうか。研究者の仕事は「知識の生産」であるが、「知識の普及、啓発、社会実装」も重要な仕事である。しかし、それは狭義の研究以上にしんどい作業でもある。災害を引き起こすハザードについて最も良く知っているのが研究者なのだから、研究者は知識の活用にもっと力を入れてほしいと思います。リモートセンシングも、ハザードの後になって、見えた、ということではなく、災害の平穏期にも活用できる知識として伝えたい。
この講義は2020年普遍展開科目「地球環境とリモートセンシングT」でも学部生に向けて講義しました。ここにスライドの説明、課題に対するコメントが掲載されています。
課題に対するコメント・議論(2022年度)
ここに頂いた回答に対するコメントを記述します。 早めに頂ければ、早めに掲載することができます。課題の回答は複数回でも結構です。対話、議論する姿勢を身に付けましょう。
間近に迫った高校の学習指導要領の改訂ですが、自立的に考えるという態度が重視されます。近藤は2022年から実施される高校「地理総合」の必履修化に向けて、やることも増えてきました。答えがひとつではない課題に、どう応えるか。後から続く高校生はその力を身に付けて大学にやってきます。10年程度のキャリアの差は長い社会人生活の中では簡単に詰めることができます。
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