Hydrology 水文学T
水文学の世界にようこそ
過年度の講義資料等はここ。
講義の中でブロッカー仮説について述べましたが、下記の文献を参考にしてください。
・Broecker, W.S. et al.(1990): A salt oscillator in the Glacial Atlantic. 1. The Concept. Palaeooceanogr., 5, 469-477.
日本語でしたら、下記の文献が良いかもしれません。
・花房公雄(2005):海洋大循環と気候変動.地学雑誌、114(3)、485-495.
思いついたものを並べてみましたが、その他の文献も探してみてください。
福島で起きていることを“わがこと化”して考えてみてください。環境問題や水問題に取り組むには“わがこと化”して取り組むこと。これが大切だと思います。
講義中に触れた内容のリンク
環境湖としての印旛沼。まず印旛沼の現状を理解し、改善するにはどうすればよいか、みんなで考えよう。
近藤(1994)はここからダウンロードしてください。
これは昨年度に話した話題。新しい仮説も提唱されています。
ラディマン仮説については下記の文献を参考にしてください。
・Ruddiman, W. F.(2003): The anthoropogenic greenhouse era began thousands of years ago. Climatic Change, 61, 261-298.
日本語でしたら、下記の文献が良いかもしれません。
・日本第四紀学会編(2007):「地球史が語る近未来の環境」、東大出版会.
蒸発散量計算プログラム
昔書いたC言語によるプログラムです。読み解けば、計算方法理解の助けになると思います。参考にしてください。ただし、使用は自己責任で。
第3話 土壌水(2012年5月10日修正)
基礎的知識と問題の関係
土壌水の動きに関する知識を持つことが、福島で降下した放射性物質の水循環への移行を予測するキーになる。具体的課題と基礎的知識との関係性は、ある時、突然やってくる。その時のために頭の中のデータベースをメンテナンスしておく必要がある。
水は低きにつく
水は水理水頭の低い方に向かって流れる。水理水頭h=位置水頭z+圧力水頭p。圧力水頭は大気圧を0とするから、河川水の水理水頭h=位置水頭z。よって河川水は標高の低い方向に流れる。地中水では圧力水頭を考慮しなければならない。土壌水帯で負、地下水帯で正の値をとる。だから、場合によっては、下方から上向きに湧き上がることもある。
毛管水帯の面白い性質についてはこちら
近藤昭彦(1987):Stormflowの形成に果たす毛管水帯の役割に関する実験的研究.筑波大学水理実験センター報告、11、85-93.(PDF)
下総台地の硝酸汚染問題と福島、阿武隈山地の放射性物質の水循環への移行問題
下総台地では、台地の表層に硝酸性窒素のプールがあります。これが局地地下水流動系を通過して表流水として流出する過程で、表流水の硝酸性窒素濃度は上昇します。しかし、硝酸性窒素の負荷量には上限があるのでピークを過ぎた後は濃度は漸減します。同じことが福島でも考えられるのではないか。放射性物質は面源のソースです。これが地中水循環に移行したら、まず局地流動系を通じて、河川の源流部で流出するはずです。下流方向には流量増加にともない、濃度は漸減していくでしょう。だから、下流しか観測点のない現在は河川水の放射能はND(Not Detected)になっているのではないか。
これはスペインの哲学者オルテガの文明論から小林信一が提唱した考え方です。我々は近代文明の恩恵を受けているが、その仕組み、成立にどんな努力がなされたか、人がこういったことに関心がなくなると、その文明は滅びるという。皆さんは福島の原発事故にどれだけ関心があるだろうか。どこか遠くで起きていて、自分とは関係ないこと、なんて思っていたとしたら、あなたは文明社会の野蛮人です。
役に立つ科学を目指すべきか
“役に立つ科学”という話をしましたが、これはアカデミック・セクターにおける重要な流れだと思います。モード論は代表的な考え方で、「マイケル ギボンズ (著)、小林 信一 (翻訳):現代社会と知の創造―モード論とは何か (丸善ライブラリー) 」の訳者による解説がわかりやすいと思います(本文はわかりにくい)。同じ流れで、「関係性探求型科学」(大熊孝「技術にも自治がある」、人間選書253、農文協)もお勧め。その他、内山節(たかし)の一連の著作、鳥越皓之をはじめとする環境社会学系の教科書も参考にしてください。
この中にある「科学のための科学」と「社会のための科学」という表現がおもしろいと感じました。これは下記のブダペスト会議の影響もあるだろうか。
表記のキーワードでWEB検索してみてください。ここで述べられている四つの科学について考えてみよう。1.知識のための科学(進歩のための知識)、2.平和のための科学、3.開発のための科学、4.社会における科学と社会のための科学。
簡単なCプログラムを公開します。SOR法によるラプラス方程式の解です。読み解くのは難しいと思いますが、近いうちに解説を作成したいと思います。これで様々な境界条件を与えて試行錯誤ができるようになれば、地下水流動系に対する理解が進むはずです。
多摩川水害訴訟の教訓 高橋裕、「多摩川」第133号巻頭言,東急環境財団
最後にハリケーン「カトリーナ」の話をしましたが、最近の災害ではグアテマラが気になります。現在、グアテマラがどのような状況にあるのかを調べてみてください。また、ホンジュラスに大きな被害をもたらしたハリケーン「ミッチ」についても調べてみてください。⇒被災の背後にどのような社会的な事情があるか
伊勢湾台風については下記の書籍を推薦します。その被災体験を自分の経験として感じ取ることができるでしょうか。
○立松和平著「大洪水の記憶−木曽三川とともに生きた人々」、サンガ新書。
山に入り、自分の力でデータをとり、仮説を考える。体験により自然の認識を深めていく、野外科学における研究という行為のあり方をなるべく感じ取るようにしてほしい。
[参考文献の紹介]
・塚本良則著「森林・水・土の保全」、朝倉書店、1998(\5200)
・恩田ほか編「水文地形学−山地の水循環と地形変化の相互作用」、古今書院、1996(\4944)
・塚本良則編「森林水文学」、文永堂出版、1992(\4429)
・日本気象学会編「水循環と水収支」、気象研究ノート第167号、1989(\2150)
講義ではアメリカのカウィータ試験地における歴史的な成果を紹介しました。しかし、日本でも同時期に優れた研究成果はあります。日本における森林水文学黎明期の成果を理解するために、1980年代に水利科学誌に連載された野口陽一著「歴史としての森林影響研究」から講義ノートを以下に公開します。
J-STAGEで公開されています。
参考文献(著者の名前で検索するとさらに多くの文献がヒットします))
[参考文献の紹介]
第9話 特定地域の水文学 −モンスーンアジアの水文地域−
[参考文献の紹介]
[水文地域計算プログラム]
研究者がなかなか自分のプログラムを公開したがらないのは、思わぬバグがある可能性があるからです。昔のプログラムをあえて公開しますので、眺めてみてください。
第10話 特定地域の水文学 −乾燥地域の水文学−
小野寺真一・近藤昭彦・佐藤芳徳・林 正貴・新藤静夫・松本栄次・池田 宏(1996):東アフリカ、タンザニアの半乾燥地域における地中水循環.日本水文科学会誌「ハイドロロジー」、26、75-86.
カネはなくとも観測はできる!どんな装置を作っているか、ご覧ください。
参考サイト
昨年までと考え方が変わった点があります。
昨年まではバックスキャスト、すなわち望ましい未来を想定して、そうなるように現在を変えるという考え方でした。今は、分相応の暮らしをしながら現在の暮らしを良くすることにより、現在とつながる未来を良くする、と考えます。未来志向が強すぎると、現在の問題の解決からは遠ざかる。なぜなら、問題はあらゆる要因が積分されて出現しているから。包括的な視点から現在の問題を理解し、協働して解決を図ることが望ましい未来につながると考える。
第11話 水に関わる環境問題 問題の関連性を考える
総合科目「地球環境とリモートセンシング」における近藤担当分で講義したものとほぼ同じです。2008年度から若干内容を変えましたので現3年生が1年次に受けたものとは若干異なっています。環境の認識が深められてきた3年次で聞くと新しい理解が得られるかもしれません。
“問題”は水問題、食糧問題、エネルギー問題といった個別の問題に分解して、それぞれの分野で最適化したとしても、問題の解決にはならないのではないか、という話をしました。人を中心に解決をはかるか、国家や会社といった組織を中心にして解決をはかるか、解が異なることもあります。まず、自分の立場を明らかにする。そうすると議論ができるようになります。
昨年までと考え方が変わった点があります(2011年度の記述)。
耕地面積を増やすことができないので、無理じゃないか、というのが昨年までの考え方(農村工学の研究者の意見を参考にしました)。しかし、食糧自給率を生産額で表すと65%、供給ベースではなく、消費ベースで表せばもっと高くなる。日本は米はほぼ自給。野菜は自給可能である。よって、生存を脅かす食糧不足は考えにくい。食生活の見直し、肉、油脂類や農業資材の供給源の見直しにより、自給率を上げることは可能ではないでしょうか。
第12話 災害と水文学 -地盤災害-
水文学の重要なターゲットである地すべり・土石流の話をしたいと思います。洪水については第5話河川水文学を参照してください.
普遍コア科目「災害地理学」も参考にしてください。
低成長時代に入り、潤沢な予算が望めない時には、自然を理解し、災害を避け、時には自然の恵みを受けながら暮らす社会作りが重要になると思います。ハザード(災害を引き起こす可能性のある自然現象)を知り、ディザスター(人間社会に危害が及んだハザード)に備えるリテラシー(教養)が必要な時代です。
おわりに
水文学Tの講義は他とは少し違うと感じた方も多いことでしょう。それは水文学が“サイエンス”であると同時に“実学”でもあり、それが水文学の重要な観点として水文学者も認識しているという点にあると思います。20世紀後半から現在にかけて“サイエンス”の在り方は大きく変化したと思います。1995年のIGBPのSSC(Science Steering Committee)における議長声明は私の心に大きく残ることとなりました。Science has become an operational stage. No more fund for beauty. 当時のボスがSSCから帰ってきて、議長がこんなことを言っていた、と話してくれたものです。東日本大震災を経験した日本はこの言葉の意味について否応なく実感させされることになりました。現場における問題の解決に科学技術は必要。しかし、科学技術だけでは解決はできない。協働が必要であることを実感させられる時代がやってきたと思います。少し難しいことを言ったかも知れませんが、このことの意味について学生諸君にはじっくり考えて頂きたいと思います。それがあなたの未来を創ります。