リモートセンシング研究からSDGsへの貢献 これは近藤の私論でもありますが、Future Earthにおける最初の公式GRP(Global Research Proramme)であるGLP(Global Land Programme)のサイエンスプランと同じ考え方を共有しています。リンクをクリックして各プログラムについて知ってください。

1 ・リモートセンシングには最先端技術と汎用ツールという二つのイメージがあると思います。最先端技術としての側面も“何のため”、”誰のため”という観点がしっかりしていないと技術のための技術になってしまいます。技術は問題解決のためのツールとなって初めて、その価値が活かされます。そこで、ここでは汎用ツールとしてのリモートセンシングを扱います。
・画像としてのリモートセンシングの最も重要な役割は土地利用・土地被覆変化(LUCC)です。それは、人間の地球表層に与えるインパクトを可視化して示してくれるからです。単なるLUCC解析ではなく、LUCCの意味するところを明らかにして、初めて環境リモートセンシングが成立します。
・それが地域を対象とした研究でも、“世界”の中の関係性の中に位置づけることにより、問題の本質が理解でき、解決の糸口が見えてくることでしょう。
2 ・世の中はグローバルからローカルの時代に移行しつつある、という論調が高まってきています。SDGsやFuture Earth(FE)はそんな時代のあらわれではないかと近藤は考えています。
・なぜなら、SDGsは現在、目の前で起きている問題を解決しようとする試みです。FEはSDGsを科学の側面から支援する取り組みです(その重要な手段としてESDがあります)。
・リモートセンシングに対する重要な期待としてリアリティーの追求(現実の理解)にあると思います。それがLUCCです。
・LUCC(土地利用被覆変化)はリモセンでわかります。では、LUCCの意味するところは何なのか。それが問題解決の最初のステップです。
3 ・1972年のランドサット1号打ち上げ以来、もう50年近い撮影画像の蓄積があります。日本も1986年のMOS1以降、たくさん之地球観測衛星を打ち上げてきました。
・1972年と言えば国連人間環境会議が開催された年です。その後のリオデジャネイロ環境サミット、リオ+10、リオ+20、その他、たくさんの会議を開催して地球環境について議論してきました。
・高分解能衛星による地球観測の歴史は、地球環境問題に対する人間の対応の歴史でもあったわけです。
・蓄積された衛星データを使って、たくさんの、小さく、深い地域の知識、経験が蓄積されてきました。それらの知的財産をどのように共有し、何を見出したら良いのでしょうか。
4 ・1990年代のリモートセンシングの重要な成果としてグローバルスケールにおける植生の季節変化の可視化や植生変動の発見がありました。
・そのきっかけは1988年代前半に作成されたGVI(Global Vegetation Index)であり、アメリカの研究者は1985年からたくさんの植生/土地利用に関する論文を出版しました。
・その最初の論文が大気CO2濃度の分析で有名なキーリングさんの息子のキーリング博士を筆頭とするシベリアにおける植生変動発見の論文です。気温上昇によってシベリアの消雪時期が早まりボレアル(北方)林の生育期間が長くなったことにより、CO2の吸収も大きくなったという発見です。わくわくしますね。
・この研究は気象データを用いて解析的に研究することができます。これを重要と認識することの背景には普遍性をよしとする欧米思想があります。
・一方、全球で植生変動を見ると、解析的な手法だけでは明らかにできない様々な変化があります。それは人間が地表面に与えたインパクトを直接見ていることになります。その背後にある様々な事情を知ることこそ、環境問題の本質を理解することに繋がります。
5 ・リモートセンシングを地域の問題解決に役立てるためには、世界観を意識することが大切です。
・それは、環境の本質である空間性、歴史性は地域ごとに固有だからです。
・だから、ローカル研究が最も“ひと”にとって重要であるはずです。
・ここで、“ひと”と書きましたが、ひとは大和言葉で、集合的に人間をさすのではなく、感情を持ち、暮らしがある顔の見える人間を意味する大和言葉です。“ひと”を大切にするリモートセンシングこそが環境リモートセンシングではないでしょうか。
・ただし、世界観そして世界の中の“ひと”を意識することは結構難しい。
・新型コロナの感染者が100人から10人に減ったら、良かったと思うでしょう。この場合は顔の見えない数字でしか表されない人を想定しているのです。でも、10人の“ひと”には本人だけでなく家族や友人の心配があり、感染することにより困難な状況になっているかも知れません。こういうことを思うことが共感(empathy)です。注)Sympathyとは少し異なります。
6 ・Aさんは理工系、Bさんは人社系。AさんとBさんの世界観を描いてみました。もちろん、両極端の場合です。
・理工系のAさんは未来志向ですが、人社系のBさんは現在を理解しようと試みます。そうすると、Aさんは現実が少し疎かになる。Bさんは未来は現実の問題を解決した、その先に見ようとします。
・Aさんは世界はひとつと考え、Bさんはたくさんの地域が相互に関係性を持ちながら押し合いへし合いしている世界とみます。
・もちろん、どちらが正しいというわけではありません。どんなスケールで事象を捉えるか、という違いなのです。
・BさんはAさんの地球環境問題は脳内環境問題ではないのか、ともない提起しています。
・両者を包摂するフレームこそが環境学の地球観だと思います。
7 ・Bさんは世界(グローバル)はたくさんの地域(ローカル)が関係性を持ちながら入っている容れ物と考えます。その関係性をリンクと呼びますが、たくさんのリンクがあります。
・最近は、個人がグローバルと結びついたり(例えば、グレタさん)、地域同士が結びついてグローバルに影響を与えたり、様々なリンクのあり方が顕在してきました。例えば、パリ協定はローカル同市がリンクしてグローバルを変えるボトムアップの例だと思います(京都議定書はトップダウンだった)。
・Bさんの世界観に基づくと、個々のローカルの理解が重要になります。ローカルと外部の世界とのリンクの構造を解明することで世界を理解することができます。
・人が意識する“世界”の広がりは(近藤は“意識世界”と呼んでいます)、その人(あなた)が関係性を持っている範囲で決まります。自分からは見えていない、気が付いていない世界の存在に気が付くことが、地球環境の包括的な理解につながります。
8 ・ローカル研究の例を紹介します。近藤研のアイスリタンさんの博士論文の一部です。
・ランドサット衛星を用いると1970年代から最近までのLUCCを地図化することができます。その技術は確立しています(ここは基礎として学んでおく必要があります)。
・上の4枚の土地利用図は中国新疆カシュガル地域の土地利用変化を表しています。この間、都市域や農地が拡大していることがわかります。最初は河川近傍の開発が進み、最終的には崑崙山脈山麓の扇状地の開発が進んでいます。
・その変化は水に対するアクセスによって一義的に決まっています。扇状地では地下水が利用できるからです(水文学の知識)。そして交通網の発達によって生産物の出荷ができるようになり、貨幣経済のもとで農地開発が進みます。
・こうなると、カシュガル域外の影響を受けるようになります。その一つが国際的な綿市場の影響です(経済学の知識)。綿価格により生産がコントロールされるようになります。
・このような域外との関係性によって土地利用が影響を受けることをテレカップリングと呼び、LUCC研究の重要な課題になっています。
・これからの環境リモートセンシング研究はより複合的な課題に対応しなければならない段階に至りました。
9 ・ローカル研究を進めなければ地球環境問題は理解できません。ローカル研究が事例研究として低いものに見られてしまうのは、普遍性を重んじる欧米思想の影響でしょう。
・環境問題は、それが地球環境問題であろうとも、問題は地域における人と自然の関係性の問題として発現します。ローカル研究でなければ問題は理解さえできないといっても過言ではありません。
・ローカル研究の成果はたくさん集めて比較研究、そしてメタ解析を行う必要があります。こうすることによって、より上位の課題に進むことができます。その過程で課題が変質していくこともあります。
・頂点に価値の創造とありますが、科学者は対象との関係性において価値観に囚われず、第三者的な立場で接すると思っていませんか。そんなことありません。科学の態度(と思われていること)が特定の価値観に基づくことは、科学史、科学論の分野を勉強するとわかりますよ。
・ちょっと難しいかも知れませんが、次ページで事例を説明します。
10 ・水質の悪化が問題となっている千葉県の水がめ、印旛沼を紹介します。ここでは産官民学の協働により水質改善の取り組みが永年にわたって行われています。しかし、改善はなかなか進みません。
・この問題は“閉鎖性水域の水問題”として認識することができます。この問題に取り組んでいる水域は手賀沼、霞ヶ浦、琵琶湖はじめたくさんあります。そこには共通する事柄や、個別の事情があります。
・これらの知識、経験を共有し、一緒に考える(比較研究、メタ解析)ことによって、より上位の課題にアプローチすることができるようになります。
・例えば、印旛沼の水質の悪化は都市化が主要な原因であり、
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