第3回 山と川 -------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 【課題】 提出期限:6月12日(近藤宛メールで提出) (1)一見何の変哲もない山地斜面のように見えても、実は永い時間をかけて少しずつ侵食され、地形は変化していきます。山地斜面ではどんなプロセスが起きているのでしょうか。教科書を参考にして簡単に纏めてください。  地形変化は自然の営みですが、そのプロセスが起きる時・場所に運悪く遭遇してしまったら、それは災害になります。ここに、山と川について学ぶ意味があります。 (2)「山と川」の章に関する質問を書いてください。 -------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 【質問に対する回答】 ●山地で高度に伴い樹高が低くなるが、地すべりや崩壊と関係があるか。 ・標高に伴う樹高の変化は森林限界付近では見られるかも知れません。高度に伴い樹木の生長にとって気候・気象条件が厳しくなるからです。 ・地質や地盤変動の様式によっては土砂生産量が多くなる高山帯では生長に必要な安定な期間が確保できないので、生長が阻害されることもあるでしょう。火山が典型的ですね。 ・森林限界付近にはハイマツと呼ばれる匍匐性の松を見ることがありますが、気候・気象条件が厳しく生長に時間がかかるからです。 ・日本列島は南北に長いので、同じ標高でも北海道と九州では気候が大分異なり、樹種にも違いが生じます。場所によって樹高が決まる要因は異なるということにも注意してください。 ・<場所によって違う>地理学の神髄です。 ●扇状地の土地条件にはメリットとデメリットがあるが、扇状地で暮らす上の工夫はあるのか。 ・農地や市街地として開発が進んでいる多くの扇状地は、日本の誇る治水・治山技術により、砂防工事が施され、安全性は高まっていると思います。 ・しかし、大都市近郊では土地条件を知らない、あるいは気が付かない、気にしないまま開発が進み、土砂災害の被害を受ける事例が最近増えてきました。例えば、広島市近郊の沖積錐状に開発された住宅団地。 ・家制度が重要だった時代には長く続く本家は被災しにくい場所に建てられていますが、新しい分家は被災しやすい場所に建ててしまうという例も多くあります。 ・洪水でしたら昔は一定程度の浸水は許容しながら被害を最小限にとどめるという工夫(例えば、霞堤)もありましたが、近代になってからは浸水を許容しない町づくりが行われるようになったことが被害が大きくなるひとつの要因です。 ・工夫は場所によって様々なものがあると思いますが、少しずつ調べてください。 ●扇状地は成長を続けているのか、成長の限界はあるのか。 ・近代になってから砂防工事、連続堤防の建設によって水害の頻度が少なくなっています。これは扇状地の成長を止めているともいえます。 ・また、近世は里山として山地の森林資源が使われたため、森林が衰退し、土砂生産量が多い時代がありました。しかし、現代になってから森林が成熟し、山から土砂があまりこなくなったことも扇状地の成長が鈍化している理由の一つです。 ・しかし、人が住んでいない山地では、現在でも扇状地の成長は続いている場所もあります。ほとんどは沖積錐だと思われますが、山岳地域に行くと植生が載っていない沖積錐を川沿いに見ることができると思います。 ・扇状地の成長にはもちろん限界はあります。100万年単位で考えれば、山地が低くなって土砂を生産しなくなれば扇状地の形成も止まります。また、土砂の受け皿としての平野の大きさにも上限がありますので、成長が止まる、あるいは動的平衡状態となる時点は想定することができます。 ●災害が多い地域ではどのような工夫をして暮らしているか。 ・東日本大震災のように広域が被災した災害もありますが、一般に自然災害は地域固有のものです。 ・それぞれの地域で、地域固有のハザード(災害になる可能性のある自然現象)に適応した暮らしがありましたが、近代化以降、工学的な手法によって(それは一律普遍的な方法ともいえます)防災が行われるようになったといいます。 ・伝統的な工夫はいろいろな例を挙げることができます。 ・洪水では輪中(集落を堤防で囲んでしまう)、霞堤(一定の浸水は許容するが、排水も速やかにできるようにする)、水防林(破堤したときに、土砂を濾しとって浸水の被害を少なくする)、などがあります。 ・地すべり地では、地すべりの恵みを受けながら、適応して暮らすという生き方もありました。 ・現代では、地震では緊急地震速報、風水害では気象予報、といった方法で事前にリスクを住民に伝えることができます。 ・現代の日本では安全・安心に関わることをほとんどすべて行政に委託しています。それは日本が良い国であることを意味していますが、国民が自分で考える習慣を失い、クレームをいうことが当たり前になっています。そんな国は暮らしやすいですか?いつまで行政は防災に関わるシステム、設備を維持できるでしょうか?実は日本の将来にとって切実な問題です。人ごとではないのです。 ・地域の自然と人の関係性のうちで災いの部分については、どんな工夫があるのか、調べて見よう。   ●山地斜面は危ない?何かメリットはないの? ・山地斜面は危ないか?そこで起きるハザード(崩壊、地すべり、土石流、・・・)は低頻度高リスクのハザードですが、その誘因(豪雨や地震)は我々は認識することができます。山地斜面でも災害に備えることはできますので、メリットを十分理解した方が楽しいですね。 ・山地斜面のメリットはそれこそたくさんあります。美しい景観は人を和ませてくれます。また、斜面があるからダムが建設できて、洪水を緩和したり、電気を作ったり、用水を溜めたり、たくさんのメリットがあります。 ・山地にも暮らしがあり、人と自然が調和して暮らしてきた結果としての景観は、文化的景観として保全されるようになっています。 ・その他、たくさんありますので自分で考えてみよう。 ・なお、最近横浜で斜面が突然崩壊し、高校生が亡くなるという痛ましい事故がありました。その場所は斜面基部が道路になっていて、建設時に斜面の一部を切り取ったのではないかと想像できます。人工法面は通常は崩壊防止工が施されているはずですが、100%の防止は困難だと思われます。 ・人口減少社会に入った日本は自然との付き合い方を変えていかなければならないのかも知れません。それは地理学の課題でもあります。 ●地すべりや斜面崩壊地を地形図や空中写真で判読できますか。 ・いい質問です。できます!下記に若干の情報を書きましたので、参考にしてください。  http://www.cr.chiba-u.jp/~klab/edu/lec/basic_geo/index.html#lec_3 ・地すべりは地形図や空中写真から判読可能で、日本ではほとんどの地域でマップが作成されてきました(多大な努力をリスペクトしてください)。  http://www.j-shis.bosai.go.jp/news-20140724 ・下記のURLではPDFで地すべり地形分布図を見ることができます。  https://dil-opac.bosai.go.jp/publication/nied_tech_note/landslidemap/pdf.html ・同様に、崩壊地は空中写真の判読によって判読できます。2018年の西日本豪雨の時の広島地域のマップが広島大学や国土地理院によって作成されていますので、見てください。  https://www.hiroshima-u.ac.jp/system/files/105540/201807_report004.pdf  https://www.arcgis.com/home/item.html?id=6887e95caba548d6b7ac5122c28264f0