序論 自然環境の仕組み  ------------------------------------------------------------------------------- 初回課題:メールを近藤までください。その際、PCおよび通信環境を教えてください。 資料を見て、どうしてもわからない点があったら、ぜひ質問してください。 近藤のアドレス kondoh(at)faculty.chiba-u.jp ------------------------------------------------------------------------------- ---(以下は2020年度の記述です。参考にしてください。)--- ●まず一通り、PDFを読んでください。わからない部分は質問してください。 ●2011年の東日本震災の時は小学生でしたね。当時のことを覚えていますか。身近な地域が被災してしまう自然現象、すなわち液状化や津波、といった現象はあらかじめ予見されていました。それは地理学の知識でもあります。 ●皆さんの住んでいる場所には、どのようなハザード(災害を起こす自然現象)が起きる可能性があるでしょうか。例えば、地盤の液状化は“均質な砂が地下水で飽和している場所”で起きやすいことがわかっています。それはどこでしょうか。いくつかありますが、東京湾岸の埋立地、沖積平野の地下に旧河道に堆積した砂が存在する場所、いろいろありますが、それらは地理学が教えてくれます。 ●千葉県では東日本大震災前からホームページで液状化危険度予測図が公開されていました。震災後はさらに詳しい地図が公開されていますが、1984年に出版された講談社のBLUE BACKS「災害の地理学」にも液状化が起きやすい地域の地図があります。ハザードは起きることがわかっているのに、知られていない。そのためにハザードが災害になるともいえます。 ●昔の地形図(旧版地形図)は土地の性質を読み取り、ハザードを予見することができます。東日本大震災では我孫子で液状化が発生しました。それは利根川沿いの池を埋め立てて市街地化された場所で発生しました(利根川から西南に延びる矩形の池の部分)。 ●環境という言葉の本当の意味を意識してください。人や生態系を取り巻き、相互作用する範囲のことです。人と自然の関係性に関する学が地理学です。 ●教科書は最近増えてきましたので、ホームページで少しずつ紹介します。指定の教科書はよくできていると思いますので、しっかり読み込んでください。 ●地理学の主体は系統地理学で、自然系と人文系の様々な分野から構成されています。それらの間の関係性を明らかにして、人と自然の関係性を明らかにするのが地理学です。だから、地理学は環境学といってもよい内容を含んでいると思います。 ●環境の本質、多様性、関連性、空間性、時間制、階層性、について考えてください。おそらく環境の理解がこれからの社会を 生き抜く力になると思います。 ●千葉県の衛星画像を見てみましょう。実はいろいろなモノが写っています。それらの要素にはまた様々な関係性があり、千葉県という空間の中に配置されることで環境を構成しています。このように、地域を包括的に見ることによって、問題を発見したり、未来を展望する学問が地理学なのです。 ●千葉県北部は台地と低地で特徴付けられます。自分が立っている大地の成り立ちを知ってほしいと思います。地形はそれをつくった力(営力といいます)があり、それを知ると災害を予見することができます。大学が建っている下総台地は約12万年の歴史を持っています。氷期と間氷期を経験し、その間に私たちが暮らす低地と台地が形成されました。その性質を知ると、災害から命や財産を守ることができるかも知れません。 ●衛星画像で1972年、1985年、1995年の千葉市付近を見てみます。フォールスカラーといって、植生が赤く見える発色になっています。青く見える都市域が拡大している様子が見えます。この間に何があったでしょうか。高度経済成長から安定経済成長期、その後のバブル経済とその破綻を経て、1995年は日本の失われた10年と呼ばれる時期にあたります。都市域の郊外への拡張から都心回帰へと移り変わる中で、確実に歴史が刻まれていることが実感できます。 ●世界は単純か、複雑か、あなたはどう考えますか。全球スケールから千葉県スケールの画像を並べましたが、どれも同じくらい複雑な対象です。ミクロに見た方が複雑な場合もあります。見るスケールによって重要な現象は異なるのです。例えば、全球スケールの大気の流れはコンピューターで大まかに再現できますが、街区とか丘陵地域といった範囲で空気の流れを再現しようとすると、影響する要素が多すぎてコンピューターで再現することは人間には困難になってしまいます。 ●世界をどのように捉えたら良いでしょうか。世界は一つか、世界は多数の地域が相互に関連し合って、グローバルを形成しているのか。おそらく地理学の世界観は後者でしょう。地域を理解し、その相互作用する(様々な関係性を持つ)集合体としての世界を理解することが地理学の目的です。 ●スマトラの熱帯林のアブラヤシプランテーションの開発、ケニヤの食料危機、緑の革命、のスライドが何枚か出てきます。自分たちの暮らしも、実は遠く離れた場所と繋がっているという例です。その背景にあるのが、グローバル資本主義といえるでしょう。さて、市場は温かいか、冷たいか。 ●皆さんは、朝食でマーガリンを使いましたか。その原料はパームオイルかも知れません。トーストを食べることと、熱帯林の縮小は関係してるかも知れません。 ●安いところで生産し、高く売れるところで商売するのが、グローバル市場経済。需要の大きい大豆もそうです。生産の現場では何が起きているのでしょうか。誰が幸せになるのでしょうか。 ●2008年は第3次石油ショックとも呼ばれる投機筋による世界的な石油の値上がりがありました。それによってケニアで食料危機が起きたという新聞記事がありました。それは、先進国の企業が肥料や種を生産し、途上国で売ることにより、農業が先進国の企業に支配されてしまったということかも知れません。見えない関係性を見えるようにすること。これも関係性の科学である地理学の役割です。 ●グローバル市場経済と地域の関係の例として、「緑の革命」があります。企業は肥料を投入し、灌漑さえできれば高収量な種を開発し、販売する。それが何をもたらしたか。功と罪の両面から考えて見よう。 ●環境をシステムとして捉える見方は重要です。環境は様々な要素からなり、それぞれ関係を及ぼし合っています。その関係性を見極めることも地理学の重要な課題です。気候も現在ではシステムとして捉えなければ気候変動を理解できない時代になりました。 ●実はいろいろなものをシステムとして捉えることができます。構成要素は何か、どんな相互作用があるか、全体としてどんなように振る舞うのか。これを知ることによって、私たちは災害や環境変動に立ち向かうことができます。 ●数学や物理学を知らなくても命を落とすことはありませんが(多分)、地理学を知らないと命や財産を失うことになるかも知れません。前期の講義では主に地形学の内容を話すことになりますが、系統地理学のフレームはしっかり頭に入れておいてください。 ●何より、地理学は楽しい。いろいろな地域の成り立ち、伝統、美しい景観、おいしい食べ物、みんな地理学の課題です。地理学は人生を豊かにします。