3.電磁波の基礎 

1 ・リモートセンシングでは主に電磁波の反射、放射、散乱を計測し、対象の種類や状態を計測します。
・電磁波の基礎について学びましょう。
・波長ごとの呼び名は分野によって異なるのですが、ここではスライドに書いた呼び名を使いましょう。
・NIRはNear Infrared、SWIRはShort Wave InfraRedです。
・それぞれの波長帯は意味があります。これからの講義でその意味を学んでください。
2 ・電磁波を波長の短いガンマ線から電波の領域まで並べたものです。
・その中で可視光(visible)は0.4~0.7μmの範囲で、波長の短いほうから青、緑、赤になります。なぜ、この波長帯が可視光なのでしょうか。
・人工衛星に届く電磁波は太陽から到達した電磁波が地表面近傍で反射されたもの、地表面近傍から放射されたものに分けられます。
・衛星から電磁波(マイクロ波帯が使われる)を発射して地表面近傍で散乱されて衛星方向に戻ってくる量を計測する散乱のリモートセンシングもあります。
3 大気圏外における太陽光の波長ごとのエネルギー(分光放射照度)を計測すると約0.5μm付近にピークがあることがわかります。この光は緑に見えます。
・一方、0.3μm程度に波長が短くなるとエネルギーは小さくなり、また、ピークを過ぎて波長が長くなると、エネルギーは小さくなっていきます。
・図の横軸を超えて波長が長い方向を見ると、だいたい0.3μm付近でエネルギーがゼロに近づきます。
・この三角形の領域を積分すると太陽定数になります。
・さて、この三角形の形は何を意味するのか。
4 ・地表面で太陽光の分光放射照度を計測すると、図の黒い部分ではエネルギーが極めて小さくなってしまいます。
・それは大気中に存在するオゾン、水蒸気、二酸化炭素が電磁波を吸収してしまうからです。
・ランドサット衛星TMの各バンドは離散的に設定されていますが、大気中の吸収が少ない部分に配置されていることがわかります。
・黒い部分を計測すると大気中の成分がわかります。
・破線は6000ケルビン(K)の温度を持つ黒体の放射する電磁波のエネルギー分布です。6000Kは太陽の表面温度に近い温度です。
・エネルギーの一番大きな部分が可視光の範囲です。私たちの目は太陽からもたらされる光のエネルギーが大きな部分を感じるように進化してきたわけですね。
5 ・太陽光が地表面に到達すると反射されますが、対象によって波長ごとの反射率が異なります。だからいろいろな色が見えるわけです。
・秋ですね。赤く見える紅葉は、可視光の中で波長の長い成分、すなわち赤の光を強く反射するので赤く見えるのです。
・緑の樹冠と、緑のトタン屋根は区別が難しいかも知れません。しかし、近赤外の光で見ると、樹冠の反射率は高いことがわかるはずです。近赤外を使うと樹冠とトタン屋根を区別することができます。
・衛星に搭載されたセンサーは、バンドを持ち、各バンドの感知波長帯は異なりますが、目的によってバンドの波長帯が選択されているわけです。
6 ・白い雲と白雪の平原はどちらも明るく見えます。可視光だけで雪に覆われた地表面をみると、そこに雲があるのか、雪を見ているのかわからなくなります。
・そこで、波長の長い光で雪を見ると、暗くなります。一方、白い雲は幅広い波長帯にわたって光を散乱するので、どの波長帯の反射率も高くなります。よって短波長赤外線の波長で雪と雲を比較すると、両者を区別することができます。
・植生や土壌で、1.5μmおよび2.0μm付近に極小値を持ちますが、水分子による吸収帯です。この近傍の波長帯のバンドを用いると、植生や土壌の湿潤度(wetness)を知ることができます。
7 ・同じ緑色の葉を持つ広葉樹と針葉樹は可視光だけでは区別ができないかも知れません。しかし、近赤外領域で見ると、広葉樹の葉の反射率が高くなっています。この場合は近赤外のバンドを使うと、広葉樹と針葉樹を区別することができます。
・なお、広葉樹と針葉樹はフェノロジー(ここでは植生指標の季節変化)、水文学的機能(蒸散量とその季節変化)、空力学的特性(樹冠の粗度等)、が異なります。
・土地利用だけでなく、水収支、熱収支の理解においても、植生の種類を区別することが重要になります。
8 ・RESTEC(リモートセンシング技術センター)作成のパンフレットからの引用です。
・波長の短いところから3μmくらいまでが可視光の領域で、太陽光が反射される大きさを表しています。それより長い波長域は、地表面からの熱放射です。
・10μm付近は常温程度の温度を持つ地表面からの放射量を表します。この波長域の放射強度は地表面温度と関連しています。
・4μm付近にも放射エネルギーがありますが、これも熱放射です。しかし、太陽光も少しだけこの波長域にエネルギーがあります。この波長域で温度を計測すると誤差が大きくなります。耳の中に入れて計測する体温計は4μm付近を使って温度を計測しますが、可視光の影響を避けるために耳の中で計測するのではないかなと思います。
9 ・ランドサットETM+で波長ごとの画像を見てみましょう。
・バンド1と2は可視光なので、自然な画像になります。
・波長が短いと、水の中にも少し透過し、散乱されて衛星方向に光がかえってきます。きれいな水だったら水深を表すこともあるし、濁度を現すこともあります。
・三番瀬付近のパターンは何でしょうか。
10 ・バンド3(赤)は光合成に最も使われる波長域です。一方、バンド4(近赤外)は緑の植生は光合成に使わないので、なるべく反射させようとします。
・左右の画像を比較すると、千葉県北西部の植生分布の状況、あるいは都市化の進展の状況がよくわかります。
・近赤外では水による吸収が大きくなり、水域の情報が無くなります。それは水域の抽出に効果的であることもわかります。
11 ・短波長赤外の画像で、人間の眼には見えない画像です。
・地図を見ながら、対象ごとの見え方の違いを観察してください。
・千葉大学の学生にとって身近な地域ですので、どこに何があるか知っておくことも大切です。現場を知らないリモートセンシング技術者にならないように注意。
・未知の地域の解析にリモートセンシングが活用できるのは、身近な地域、行ったことのある地域における経験があることが前提です。
12 ・熱赤外バンドである、バンド6の画像です。これは午前中の画像であることに注意。
・どこが明るい(地表面温度が高い)か、それは何に対応しているのか、じっくり観察してください。
・水域も大分温度が異なることがわかります。それはなぜか。
・印旛沼、手賀沼は東京湾より水温が低いようです。なぜでしょうか。
13 ・衛星から地表面温度を計測できる原理を説明します。
・シュテファン・ボルツマンの法則から、放射されるエネルギーがわかれば、σは定数ですので、温度を求めることができます。
・最近体温計測でも使われている放射温度計は身体から放射されるエネルギーを計測して、温度に変換しているわけです。
・ウィーンの変位則は高校の地学で学んだと思います。
14 ・高校では赤い恒星と青い恒星ではどちらの温度が高いか、ということを学んだと思います。波長の短い青の領域にエネルギーのピークがある恒星の温度が高いということになります。
・λmは可視光では緑、大体0.5μm付近になります。この値を式に入れると、T=5800K(ケルビン)となります。これは太陽の表面温度です。
・一方、常温、ざっくり300Kとするとλm=10μmとなります。これは全ページの図で、地球からの放射エネルギーのピークがあった波長です。
・一方、10μm付近は“大気の窓”領域です。だから、宇宙空間に放射温度計を置いても、地表面の温度が計測できるわけです。
15 ・ランドサットTMのバンド6は熱赤外バンドです。
・打ち上げ前にセンサーの校正を行い、計測されたエネルギーRから絶対温度Tに変換する式を作成しておきます。
・デジタルナンバーの話は次の項目で行います。
16 ・ランドサット5号が1984年8月14日の午後9時頃に撮影した東京大都市圏の地表面温度分布です。
・何が見えますか。それは土地被覆とどのような関係があるでしょうか。
17 ・ランドサット5号は寿命の長い衛星でしたが、TMも10年も経つと劣化します。
・重要なことは、物理温度の絶対値には誤差が生じますが、相対的な温度分布は正しいとみて良いということです。
・衛星画像では、空間的なパターンと、その変化に基づき、現象を認識することができます。
・よく解析しなければ結果が出ないという言説を聞きますが、そんなことはありません。対象を知ることにより定性的な結果を得て、検証を行うことにより、定量的な認識に進むことができます。
・これがリモートセンシング技術者と環境リモートセンシング研究者の違いです。
18 ・シュテファン・ボルツマンの法則はすでに学びました。
・しかし、現実の対象は黒体、すなわち、吸収したエネルギーをすべて放射する理想的な物体ではありません。
・放射率εを考慮する必要があります。
19 ・様々な物質の熱赤外領域の波長の放射率を示します。
・大抵の地表面を構成する物質は0.9程度ですので、大きな誤差は生まないかも知れません。
・計測の目的に合わせて、放射率を考慮するかどうか決めてください。
20 ・まとめです。
・最低限、知っておく必要のある項目です。
・このことの意味を、少しずつ感じ取ってください。