2.センサーとプラットフォーム 衛星による環境変動研究における宝物は過去に蓄積された大量の画像です。今は亡き古い衛星、センサーのことも思い出して、画像から智慧を絞り出す糧にしてください。最新の衛星は研究室に配属されたら学ぶことができます。。

1 ・リモートセンシングには広い意味があります。人工衛星による地球観測だけではなく、物理探査や、実験室レベルの計測まで含みます。
・環境リモートセンシング研究センターでも人工衛星リモートセンシングだけでなく、航空機やドローンを使ったリモートセンシング、地上レベルの分光計測やマイクロ波の散乱実験まで幅広い活動を行っています。
・特に、最近はドローンが急速に進歩し、低高度リモートセンシングも新しい応用の可能性を拓いています。
・様々なプラットフォームによるリモートセンシングを組み合わせる手法もこれからは登場するでしょう。
・研究、すなわち新しい知識生産は、新しい手法が登場したときに一気に進みます。
2 ・学術に定義は付き物。リモートセンシングとは何か。いろいろな表現を学んでください。
3 ・地球を観測する人工衛星の軌道には3種類あります。
・①太陽同期巡回期極軌道: 概ね500から1000kmの高度で、両極をかすめて飛行します。赤道を通過する時刻が決まっているので、太陽同期といいます。
・②静止衛星: けっして静止しているわけではありません。地上から静止しているように見えるだけです。詳しくは次ページ。
・③その他: 太陽非同期の衛星。宇宙ステーションやスペースシャトルがこれです。高度は500km以下。だから地球を一周する時間が短い(ケプラーの法則)。
4 ・静止気象衛星では地球の半分を撮影することができます。でも日米欧の共同によって全球の観測が可能になっています。
・中国やインドも静止衛星を持っています。
5 ・最初の人工衛星は1957年のスプートニク1号でした。近藤は1958年早生まれなので、学年は同じです。
・初めての地球観測は1960年のタイロス衛星。地球の素顔をぼんやりと見ることができました。
・初めての高空間分解能センサーを搭載した衛星は1972年のランドサット1号。この時、人類は初めて繊細な地球上の地形、地質や植生の分布状況を見ることができました。その時の感動を想像して見ましょう。
・70年代は冷戦の最中でしたが、共産圏の穀物の状況がニュースで流れていたことを覚えています。
・その後、1986年、1987年にヨーロッパそして日本もアメリカに次いで地球観測衛星保有国となりました。
・その後、様々な地球観測衛星が打ち上げられて現在に至っています。この間、継続して打ち上げられた衛星は様々な地球表層の変動を捉えました。
・残念ながら日本は継続して衛星を建造することができなかったため(大蔵省、現財務省の政策)、地球環境変動に関する貢献は欧米に先を越されました。
6 ・歴史を飾った地球観測衛星を紹介します。
・ランドサット1号打ち上げによって、1970年代には主要なデジタル画像解析技術が確立しました。
・その後、衛星データの蓄積が進み、様々な変動が起きていることを我々は知ることができました。
・画像データは空間情報であるとともに、蓄積とともに時間情報になります。そこに人間の知識、経験を組み合わせることによって、変動の抽出と、変動の意味を知ることができます。
・解析技術が進歩すれば、何でもわかるようになるわけではありません。変動の意味を理解するのは人間の頭です。
7 ・1980年代はアメリカの気象衛星NOAAの画像が蓄積し、Global Vegetation Index(GVI)が作成されたことが重要な出来事だったと思います。
・GVIによって植生の分布や、植生の季節変化が大気CO2濃度の季節変化と同期していることがわかってきました。80年代の特筆すべき成果です。
・第4段階はリオサミット以降に相当します。第3期に始まったGlobal Changeの時代がピークを迎えます。
・実はこのスライドはもう20年近く前に書いたものですが、第5段階で地域に対する貢献の時代がくると書いたことが、SDGsやFuture Earthでまさにそうなりました。
・第6段階は実現できるでしょうか。
8 ・近藤が主張している環境の見方です。
・物理で駆動されるひとつのグローバルがあるのではなく、様々な個性(地域性)を持つ地域が相互作用しながらグローバルを構成していると考えます。
・その相互作用には、物理だけではなく、政治、経済、宗教、人種、...様々な関係性があります。この関係性を環境社会学ではリンクと呼んでいます(鬼頭秀一)。
・ここは学生の皆さんはじっくり考えてください。理工系だけではなく、人社系ではどのようにグローバルを認識しているのか。この認識が問題解決につながります。
9 ・リモセンのプラットフォームとセンサーについて学ぶ際に、注目すべきポイントです。
・高空を飛行しながら、大量の画像を撮影し、地上に伝送するのは高度な技術です。衛星の機能と画像の質の間にはトレードオフがあります。
10 ・地球環境変動の実態を知りたいと考えたら、古い画像と新しい画像を比較することが第一歩です。
・高空間分解能画像センサーを搭載した最初の地球観測衛星ランドサットの仕様を学びましょう。
・衛星には寿命がありますので、継続して後継機を打ち上げます。その際に少しずつ衛星やセンサーの仕様が変更、向上していきます。
・ランドサット1~3号にはRBV(いわゆるテレビカメラ)とMSSというセンサーが搭載されていました。
・ランドサット4、5号はTMというセンサーを搭載し、その30mという空間分解能を得るために、高度が低くなっています。これによって周期が変わっていますが、ケプラーの法則で説明できますね。
11 ・ランドサット衛星で1970年代~80年代前半の解析をする際に使うことになるのがMSSです。
・空間分解能は80mと書いてありますが、4号以降が括弧内になります。
・進行方向に直角な方向に操作しながら、衛星が進行していくわけですので、画像処理の段階で空間分解能は変わっていくことに注意しておいてください。
・ラジオメトリック分解能という難しい用語が出てきました。これは明るさの段階を二進数の6桁で現すということです。それは64段階の明るさを現すことができることを意味しています。
・80年代まではデジタル情報は磁気テープを使っていました(サンダーバードで出てくるでしょう)。CCTとはComputer Compatible Tapeの略です。コンピューターに入力する際には、7ビットに引き延ばして記録したということです。
・MSSセンサーは4つの波長帯で地表を観測しました。青がないのは当時の技術的な問題かも知れません。
12 ・ランドサット4号以降はTMすなわち主題図という名称を持つセンサーが搭載されました。
・その主題は公募され、表の右側に書かれていますが、波長の特徴から、ここに書かれた目的を達成することが予定されました。
・バンド6は熱赤外画像すなわち温度が計測できますが、技術的制約から空間分解能は120mになっています。
・バンド6までが設計された後、地質分野から中間赤外線(短波長赤外線)のバンドが要望されたため、バンドの番号は波長順になっていません。
・ランドサット7号からはEnhanced Thematic Mapper Plus(ETM+)が搭載されています。打ち上げに失敗したランドサット6号にETMkが搭載されていました。
13 ・ちょっと見難いのですが千葉県の1972年と2001年の画像です。
・1972年の画像は館山の画像がNASAのアーカイブからなくなっており、少し新しい画像を合成しています。
・デジタルデータは保存に失敗すると無くなってしまうこともあります。だから、アーカイブというのは大切な仕事なのです。
・ここに書かれたホームページはなくなっているので注意。URLも永久ではありません。
14 ・SPOT衛星は1986年に打ち上げられましたが、西側諸国としてはアメリカに次いで2番目に地球観測衛星保有国となりました。当時は冷戦中で、ソ連の事情はよくわかりませんでした。
・空間分解能10mの白黒画像、20mのマルチスペクトルバンドの画像を見たときは感動しました。
・SPOT衛星は現在も継続して運用されており、環境監視や農業といった応用分野で活躍しています。日本は...
15 ・MOS1は日本が始めた打ち上げた地球観測衛星です。1987年は会計年度では1986年度になります。SPOTは1986年ですので、日本の会計年度では同じというのはちとさみしい。打ち上げ時には漁船に退避してもらうので、日本の衛星打ち上げは2月になってしまいます。
・2機打ち上げられましたが、継続して運用されていれば、様々な環境変化を捉えることができたに違いありません。日本の大蔵省(現財務省)は継続予算は認めず、開発予算のみを認める方針をとっていますが、日本が世界に貢献するチャンスを奪われたよな気がします。
・JAXAも前進はNASDA(宇宙開発事業団)でした。継続こそ環境モニタリングにとって重要なのに...
16 ・たとえば、MOS1はボルネオ島北部の伐採の状況を捉えています。
・アマゾンは平らなので、直線の林道から直角方向に支線がのびるフィッシュボーンという林道と近傍の伐採地の構造が見えますが、アジアの熱帯雨林の特徴は山がちなので、ネット状の林道が見えます。
・中央の町は材木の集積地だそうです。
17 ・NOAAは気象衛星ですが、長年にわたって運用され、様々な環境変化を捉えてきました。
・地球環境変化モニタリング領域における貢献はノーベル賞級あるはそれ以上だと思います。
18 ・千葉大で受信した華北平原です。
・平原の緑の中にグレーの部部がありますが、土地の性質の違いを表しています。
19 ・1998年には長江および松花江、ノン江で大洪水が起きました。
・毎日画像をモニタリングし、浸水域の広がりをモニターしていました。
20 ・現在のひまわり8号の前のシステムです。静止気象衛星として気象予報に使われてきました。
21 ・ERS-1はEuropean Remote Sensing Satelliteの略です。
・初めて実用のレーダーを搭載しました。
・Cバンド(日本の気象庁の気象レーダーと同じ周波数)の合成開口レーダーを搭載しています。
22 ・合成開口レーダーについては、マイクロ波の講で詳しく行います。
23 ・JERS-1は当初はERS-1(Earth Resources Satellite)だったのですが、ヨーロッパから文句が来て、Japaneseがつきました。
・初めてLバンドの合成開口レーダーを搭載しました。
・打ち上げが1992年ですが、ERS-1は1991年。でも日本の会計年度は1991年。こんなことを言ってもしょうがないですね。
24 ・ADEOSは大型のプラットフォームにたくさんのセンサーを搭載し、同時に多数のデータを取得するというコンセプトを日本が世界最初に実現した地球観測衛星でした。太陽電池パネルの故障により1号機に続いて2号機も短期間で運用中止になったのは残念なことでした。
・TRMMはプラットフォームをNASAが提供し、日本の降雨レーダーを搭載した画期的な衛星でした。スライドでは運用中となっていますが、2015年に運用を中止しています。長期にわたって頑張ってくれました。
25 ・衛星に関しては情報はたくさんありますので、自分で情報をとる力を身に付けてください。
・重要な観点は、なぜその地球観測衛星が計画され、実現されたのか、という点です。
・科学の成果は国の経済力に比例します。日本はこれからどんな計画が可能なのでしょうか。
・なぜ、日本が地球観測衛星を打ち上げるか、という哲学(基本的な考え方)が問われる時代になりました。