植生変動 過去50年にわたり地球を観測し続けた衛星は植生が変動していることを可視化してくれました。それは気候変動の影響、人間活動の影響、様々な変動要因を解明するきっかけを与えてくれます。このスライドも少し古くなりました。しかし、研究の作法は、まず古い成果を知ること、その上で新しい知見を積み上げることです。新しい成果は研究として試みてください。ここでは植生変動研究の歴史について述べたいと思います。
1 | ![]() |
・右の写真はブナです。ブナは美しい林をつくります。新潟県十日町には美人林と名付けられた美林もあるくらいです。近藤も大好きな樹種です。 ・ブナ林は日本海側に多いのですが、それは拡大造林時に多雪のためスギ、ヒノキの植栽ができなかったことも理由の一つです。 ・植生は単純な物理だけでは語れないと思います。地域ごとの様々な要因が積分されて植生に影響を及ぼします。 ・植生リモートセンシングを志すのであれば、生態学、生理学、地理学の諸分野を勉強することをお勧めします。 |
2 | ![]() |
・なぜ植生が重要か、に関する定番の説明です。 ・でも、頭でわかったつもりにならず、地域ではどのようにして環境形成の役目を担っているのか、じっくり考えてください。 |
3 | ![]() |
・和辻哲郎の「風土」の一節です。岩波文庫にありますので一読をお勧めします。 ・英語のenvironmentの訳は環境ですが、風土の方が原意に近いという考え方もあります。 ・現在の日本語の環境の意味はだいぶ変遷してしまい、周囲という意味でしか使わない場合もあります。フランス語のmilieuでもある環境と風土。フランスの地理学者オギュスタン・ベルクも風土がいいんじゃね、といっているようです。風土について考えてください。 |
4 | ![]() |
・地球会⇒地中海の間違いでした! ・地球上のある地点に視点を置き、どんな景観を見ることになるか、想像してください。 ・そこから移動すると、どのような景観の変化があるか。 ・それはどんな理由によるのか、考えてください。 |
5 | ![]() |
・植生観測の原理に関する説明の定番です。他の講義でも学ぶと思います。 |
6 | ![]() |
・植生指標に関する言葉による説明。 |
7 | ![]() |
・近赤外の光が見えると世の中変わります。 ・これはドローンリモセンを始めた頃の写真です。蘇我にある千葉県農林研究センターの水田圃場です。ドローンリモセンではずいぶんお世話になりました。 ・ドローンも今は進歩して、使いやすくなりました。 |
8 | ![]() |
・これも基礎中の基礎ですね。 ・赤と近赤外で下総台地を見た画像です。濃淡の違いを対象の分光反射率を使って説明してください。 |
9 | ![]() |
・植生リモセンで使われるNDVIの説明です。 ・リモセン研究では新しい指標の開発も一つの目標です。しかし、もう一つの重要な役目を忘れないでください。 ・それはオペレーショナルであること。誰でも簡単に使えること。 ・現場では精度の高い物理量が必要でない場合もよくあります。 ・また、画像の分布、および時系列に重要な情報が含まれる場合もあります。 ・研究の最終目的を忘れないようにしてください。 |
10 | ![]() |
・もう50年近く前、1972年の下総台地のNDVI画像です。当時のセンサーはMSSで分解能は約50mでした。 ・還暦を過ぎた近藤は当時中学3年生。画像の中にいるはずです。 ・この頃の状況は空中写真でわかります。空中写真閲覧サービスで1970年代の写真をダウンロードして比較してください。 ・画像判読の経験的スキルを身に付けることもリモートセンシング技術者の重要な目標です。 ・解析しないとわからん、なんて言っていたのではせっかく見えているものも見えませんよ。 |
11 | ![]() |
・2001年の同じ範囲です。植生の状況がだいぶ変わったことがわかります。 ・センサーはTMになって空間分解能は30mに向上しました。 |
12 | ![]() |
・1972年から2001年の間には、日本は高度経済成長、低成長期、バブル経済とその崩壊、失われた10年と言われる経済停滞期を経験しました。 ・それが土地被覆の変化に顕れています。 ・変化のマッピングだけでは論文は書けない時代になりました。変化の要因を説明するためには、あらゆる要因を取り込んで説明する力が必要です。 ・それが、環境リモートセンシングです。 |
13 | ![]() |
・土地被覆の変化がわかったら、何が起きているのか、その要因は何か、考える力を身に付けてください。 ・様々な対象に関心を持ち、それらの間の関係性を見極める態度が必要です。 ・勝手にやっている環境研究では評価されない時代になりました。 ・ポストコロナ社会は本質が求められる社会になるでしょう。研究の成果だけでなく、その成果の意味するところは何なのか、考える力を身に付けてください。 |
14 | ![]() |
・植生が変われば地表面温度も変わります。 ・ランドサット衛星は地球の夜側も観測し、熱赤外バンドの画像を撮影します。 ・ランドサット5号は長寿命の衛星で、1984年と1994年の夏の夜間の関東平野の熱赤外画像を残しました。 ・左の上下2枚の画像を比較すると、地表面温度と植生分布の関係は明らかでしょう。 |
15 | ![]() |
・関東平野の昼と夜の画像です。 ・大宮付近を通る東西の側線で地表面温度(縦軸のDN)と植生指標(横軸)の関係を見ると、負の相関が見えます。 ・これは都市環境の解析にも使えるはずです。 |
16 | ![]() |
・高空間分解能衛星の活用について重要な点を纏めました。 ・研究のための研究を超えて、意味のある研究ができるようになってほしいと思います。 ・その意味づけが研究者、技術者としての力です。 |
17 | ![]() |
・今度はグローバルの話題です。 ・懐かしい画像です。MODISが登場した時は感動したものです。 |
18 | ![]() |
・MODISの前に、NOAAについて述べておかなければなりません。 ・広域をざっくり観測する気象衛星として運用されたNOAAは軌道制御は厳密ではありませんが、広い刈り幅で地表面を撮影するので、ほぼ1日で全球を撮影できます。 ・かつ長期間にわたって運用されたため、全球の長期の画像データを得ることができました。 |
19 | ![]() |
・NOAA衛星のAVHRRセンサーは赤と近赤外の波長域を持つため、NDVIの計算ができます。 ・1981年からのデータを使って、全球のNDVIデータが作成されましたが、それがGVIです。 ・データを使った研究成果は1985年頃から出始め、地球環境に関わる貴重な成果が生み出されました。 ・科学技術の社会への貢献とは何か、それを実現するにはどのような努力が必要か、私たちは学ばなければなりません。 |
20 | ![]() |
・ストックホルム会議、リオサミット、その後の環境サミットにつながる全世界の地球環境変化に対する意識の高まりを意識しよう。 ・地球環境研究のためのデータセットを提供することが先進国の誇りとなった。 ・1990年代の重要な変化は、ネットワークに繋げれば誰でもデータを取得して、地球規模の環境変化に関する研究ができるようになったということ。 ・もちろん、競争も激しくなりましたが、データ解析の先にある解くべき課題を意識することができれば、GVIは多くのことを語ってくれます。 |
21 | ![]() |
・理工系の研究は、研究者の努力の積み重ねによって、少しずつ進歩していきます。過去の先行する研究は最大限に尊重し、それを超える新しい成果、時には過去の研究の反駁になるかも知れませんが、少しずつ進むものです。 ・(人文社会系では、個人の思索がどれだけ深まったか、という点が評価されることが多いようです) ・1980年代前半にGVIがアメリカで整備されてから、アメリカの研究者は新しい手法で世界の植生分布に関する成果を得ました。 ・アメリカの研究者は自国で開発したデータセットを用いて、自国の成果として世界に発信したわけです。 |
22 | ![]() |
・その後、GVIが誰でも容易に使えるようになり、世界の研究者による利用が始まります。 ・近藤も1995年に論文を書きました。でも、それは80年代のアメリカの研究を超えなければなりません。新しい観点が必要なのです。 (Kondoh,A.(1995):Changes in Evapotranspiration due to Anthoropogenic Changes in Land Cover in Monsoon Asia. Journal of the Japan Society of Photogrammetry and Remote Sensing, 34, 4, 13-21.) ・オリジナルな研究を行うには新しい観点が必要です。それは、普段から世界を関係性を通じて見る、という習慣があれば、容易に見つかるはずです。 ・オリジナリティーは、ほとんどの場合、新しい組み合わせです。いろいろなことに関心を持ち、組み合わせるもの、関係性がありそうなものを普段から探索していれば良いのです。 |
23 | ![]() |
・1980年代後半はグローバル植生図の時代といってもよいでしょう。 ・世界の植生/土地被覆の認識が進みました。 |
24 | ![]() |
・GVIデータによる植生フェノロジーを使って、大陸スケールの植生図を作ることができます。 ・でも、現在の植生、土地被覆は人間活動の影響を受けています。 ・そこで、気候から、その場所における潜在植生を推定し、現在と比較することができます。 ・1990年代前半は様々な気象、地形、土壌等のデータセットが利用可能になった時代で、重ね合わせて使うことにより、土地の属性を検討することが可能になりました。 ・中国東北平原は草地になっていますが、実際は水田や畑です。グローバルな視点ではマクロな解析ができますが、地域ごとに精度を上げるには限界があります。 ・マクロな視点では、何を論じるべきか。また、ミクロな視点では何を論じることができるか、スケール観を持ってください。 |
25 | ![]() |
・この様な研究のトップレベルの目的は何だろうか。地図化ができれば良いのでしょうか。 ・研究がまとまったら、その先の課題を考える必要があります。 ・土地利用・土地被覆変化研究(LUCC)だったら、なぜ人間が土地を改変したのか、その影響はどこに、どのように及んでいるのか、考えるべき事はどんどん膨らんでいきます。 ・みなさんも論文を書き終えたら、その研究成果の意味するものは何なのか、考える習慣を持ってください。 ・それができたら環境学者です。 |
26 | ![]() |
・古い研究ですが、Shukulaさんは土地利用変化の先にあるものを考えました。 ・アマゾンは森林伐採が現在でも進行していますが、熱帯雨林がなくなったら、気候にどんな変化を及ぼすか、モデルによって定量化しました。 ・結果は、気温は上昇、蒸発量は減少、降水量も減少、すなわち植生から裸地への変化は地域の乾燥化をもたらします。 ・もちろん、物理を考えれば当然演繹できる結果ですが、モデルで定量化ができた点がすごいと思います。 ・当時、そんな極端な土地利用変化はあり得ない、という批判もありましたが、アマゾンの森林減少は進んでいます。 ・地域性も大切です。アマゾンの水蒸気の供給源は大西洋です。東から運ばれた水蒸気が降水となり、再蒸発して降水となるプロセスを繰り返しています。だから、森林がなくなれば内陸への水蒸気の輸送が滞るわけです。 ・アジアの熱帯雨林は近くに海があるので、森林伐採は顕熱輸送量を増加させ、対流の強化により、降水量は増えるという研究もあります。 |
27 | ![]() |
・これは千葉大学で受信したNOAA衛星の画像です。 ・一面緑に覆われていますが、春は一面の小麦畑、夏はコーン畑になります。春の乾季の灌漑は地下水によって賄われますが、その量は300mmに達します。 ・この地域の年降水量が400~500mm程度ですので、灌漑によって大気に戻る水蒸気量が増加していることになります。 ・その気候に及ぼす影響はどうなるのでしょうか。ぜひ研究してください。 |
28 | ![]() |
・1980年代の代表的な成果を紹介します。これらは植生リモートセンシングを志すならば、絶対知っておかなければならない成果です。 ・新しいデータセットの登場により、世界の認識が深まった瞬間です。 ・研究という行為は現在ではレビュー(過去の成果を知ること)の占める割合が増大しています。大変ですが、過去の成果を引用することが研究の作法です。 ・イントロできちんとレビューを行うことは、成果の伝承にも役に立ちます。 |
29 | ![]() |
・エルニーニョの影響がGVIで見えることを初めて明らかにしたのは、前ページのMalingreau(1986)だと思います。 ・GVIで見ても、エルニーニョの影響がよく解ります。 ・エルニーニョ年は、東南アジアは乾燥します。エルニーニョが発生しているときにクアラルンプールのタワーに上ったことがありますが、辺りは煙霧で眺望を得ることはできませんでした。 |
30 | ![]() |
・1980年代のもう一つの重要な成果は、植生の季節変動が、大気中のCO2変動と同期していることを発見したことです。これが、衛星リモートセンシングによる炭素収支研究の礎になりました。 ・下は有名なマウナロアにおけるCO2濃度の観測記録です。これを担っていたのが、キーリングさんの父親です。この方は研究者ではなく、技官でした。継続してデータを取得することに熱意を燃やしたのですが、それが気候変動研究の重要性を世界にアピールすることになりました。 ・日本では技官の立場はどうでしょうか。 |
31 | ![]() |
・近藤(2002)の成果を紹介します。2003年ではなく、2002年でした。 ・近藤昭彦・建石隆太郎・ルンツヌウ エレオノラ・朴 鐘杰(2002):植生活動と気候変動、大気CO2濃度との関係.水文・水資源学会誌、15(2)、128-138. ・全球平均のNDVIは80年代を通じて上昇しますが、91年、92年で減少します。それは北半球の変動と一緒です。なぜか⇒北半球の方が陸域が広いから。 ・北半球ではNDVIの変動は温量指数と同期します。一方、南半球はちょっと違い、年降水量の変動と逆相関します。 ・すなわち、北半球では温かい年に植生は元気で、南半球では湿潤な年に植生は元気。 ・南北半球の植生分布と気候図を比べると上記のことはよく解ります。 |
32 | ![]() |
・前のスライドはマクロな解析の結果でした。 ・しかし、地域ごとのNDVIの変動は多様です。 ・そこで、NDVIを用いたフェノロジー(植物気候)を用いて定量化することによって、その空間分布や年々変動を解析することが可能になります。 ・もちろん、地域性だけでなく、気候変動の影響も定量化できる可能性があるわけです。 |
33 | ![]() |
・フェノロジーに関する指標を定量化したのは、White et al.の論文だったように思います。 ・その前には、雲の影響を受けた衛星データから雲ノイズをどのように除去するか、という研究がありました。 |
34 | ![]() |
・90年代に入るとNOAA衛星によるNDVIデータの蓄積が進み、変動がわかるようになりました。重要な成果として北方林(ボレアル林)の活性化があります。 ・そこで、近藤も同様の解析を行って見ました(近藤ほか、2002)。 ・研究では人の真似をするな、とよく言われます。ここは誤解しないでください。まず、真似をしろ、その上で、その先を目指せ。近藤はこう言います。真似をしただけで発表はできませんが、手法や考え方を学ぶことができます。その成果に基づいて新しい観点を産み出してください。 |
35 | ![]() |
・近藤ほか(2002)では、植生変動と気温、降水量の変動の関係を解析しました。実は論文の査読中にKawabata et al.(2001)が出ました。市井先生の最初の論文です。近藤も同じ認識を得ましたが、論文を仕上げるために大気CO2濃度の解析を急遽追加したことが良い思い出となっています。 Kawabata, A., Ichii, K. and Yamaguchi, Y. (2001): Global monitoring of interannual changes in vegetation activities using NDVI and its relationships to temperature and precipitation. Int. J. Remote Sensing, 22, 1377-1382. ・その後、Nemaniさん(市井先生、樋口先生の恩師のひとり)が放射を新たに加えています。 |
36 | ![]() |
・研究では常に新しい観点が重要なのですが、近藤は地理屋ですので、地域ごとの変動を重視しました。 ・そこで、植生変動の気候要因と人間要因を同時に説明することを研究の目標の一つに掲げ、アジア各地で研究を積み重ねてきました。 ・アメリカの研究者はボレアル林を重視しました。それはボレアルが欧米人の心の樹であるとともに、気象データを使って解析的な研究ができるからです。そこには一神教のヨ-ロッパ思想の影響が見え隠れします。 |
37 | ![]() |
・例えば、黄河沿いの大灌漑地ではNDVIは増加し、地表面温度は下がっています。これは黄河の水を使った灌漑農業が地域の気候に影響を与えていることを示しています。 ・黄河の逆U字の流路の間、ムウス沙地ではNDVIと地表面温度の増加地域の境界が東北から南西に走っています。これは長城と概ね一致します。漢民族の農業と、モンゴル族による放牧地域の境界を見ているのかも知れません。 ・そこで、何が繰り広げられているのか。興味をもってほしいと思います。 ・なお、使ったデータはPAL(Pathfinder AVHRR Land)データセットで、NOAA衛星による地表面温度データセットが含まれていました。 |
38 | ![]() |
・華北平原とは淮河の北、太行山地の東、燕山の南の平原の呼称です。その中でも黄河の北側の河北平原はレスター・ブラウンが「誰が中国を養うのか」で有名になったように、地下水位の低下が問題になっている地域です。 ・衛星データで穀物(小麦、コーン)の状況はわかります。しかし、懸念されている地下水の状態はわかりません。 ・環境リモートセンシングでは衛星データ解析の分野と、他の分野の協働により問題の診断だけでなく、治療まで視野に入れる分野でありたいと思っています。 ・リモートセンシングは協働することによって、リモートセンシング技術者も自身の役割を認識することができるのです。 |
39 | ![]() |
・全ページの画像では北京の北側の燕山山地も植生シグナルが増加していることがわかります。 ・ここには密雲ダムがあり、北京の水源となっていますが、近年流入量が減少しています。なぜでしょうか。 ・なお、北京に水を送る大ダムは二つあり、もう一つが官庁ダムです。八達嶺の長城から望むことができます。しかし、北京から郊外に移転した工場からの汚水で水質汚染が進んでいます。北京の水問題のもう一つの顔です。 |
40 | ![]() |
・密雲ダムの流域の衛星画像です。確実に植生が増えていることがわかります。それは永年にわたる植林活動の成果です。 ・これを長城にあやかって、緑の長城と呼んでいるそうです。 |
41 | ![]() |
・密雲ダムへの流入量の減少の理由はなんでしょうか。 ・植林の初期の成長段階では蒸散により水は消費されます。では、植林が原因でしょうか。 ・初期の一時間断面ではそうかも知れません。しかし、環境に関わる事象は時間軸で捉えることが重要です。 |
42 | ![]() |
・森林と土壌は時間とともに相互作用し、森林の生長とともに水環境に関する機能が異なってきます。 ・時間がかかる現象は必ず時間軸で考える習慣を身に付けましょう。 ・リモートセンシングを活かすには対象分野の知識が必要です。もし、対象の専門家になることが困難であったら、協働すれば良いのです。 ・協働ができないと問題は解決できません。リモートセンシングが発展するためには、リモートセンシング技術者が協働の意識を持つことが必要です。エリートではいけません。 |
43 | ![]() |
・フラックス(流束)とは単位時間に単位断面積を通過する物理量です。 ・いろいろな物理量に対してフラックスを定義することができます。 |
44 | ![]() |
・フラックスネットは植生リモートセンシングをやっている皆さんは知っていますね。 ・当初、陸域の炭素や水蒸気のフラックスは簡単にモデル化できると考えられていました。しかし、現実には植生帯によって事象が異なることがわかりました。 ・そこで、様々な植生帯において観測タワーを設置し、植生帯ごとのフラックスの特徴の理解が試みられました。 ・次の段階では、グローバルにもう一度戻してやらねばなりません。 |
45 | ![]() |
・NDVIと水蒸気フラックス(蒸発散量)の間には極めて良い相関があります(左上の図)。 ・ここでEtは秤量形(ウェイング)ライシメーターで計測した実蒸発散量です。良く合っているでしょう。 ・NDVIを近赤外と赤のDN(Digital Number)に分解すると、近赤外は太陽高度と同じ変動を示します。しかし、赤のDNは植生の成長が始まる春から初夏にかけて急激に下がります。 ・おそらく近赤外DNが入射エネルギー、赤が光合成速度を表し、両者の比が植生の状態を表すことになるのではないかと思われます。 ・その結果、NDVIと実蒸発散量は極めて良い相関を持つようになります(右下の図)。 |
46 | ![]() |
・全ページの研究はStep.1からStep.2に入りかけた段階だと思います。 ・近藤はこれ以上の深掘りをしていませんが、Step.2からStep.3の研究が植生モデリングの分野で進められていると思います。 |
47 | ![]() |
・Tucker et.al.(1986)は最重要の古典だと思います。是非読んでください。 ・北半球の植生の成長期に大気CO2濃度は下がっています。それはもちろん光合成によるものでしょう。 ・大気CO2濃度は季節変動をしながらも、上昇傾向にあり、1990年頃にピークがあることがわかります。後の議論のために覚えておいてください。 |
48 | ![]() |
・年々変動でみるとどうなるでしょうか。 ・この図は大気CO2濃度の減少量を偏差、すなわち、どれだけCO2を吸収したかという観点でプロットしていることに注意してください。 ・エルニーニョの後の1984年までを除いて、バローにおける大気CO2濃度減少量とNDVI(年間積算値)の偏差は良く一致します。 ・植生が元気な年は、大気中のCO2は減っているといえます。 |
49 | ![]() |
・グローバルスケールでみましょう。ここでは大気CO2濃度とNDVIの線形回帰したトレンドからの偏差をプロットしています。 ・北半球平均で見ると、暖かかった年は偏差が大きくなっています。 ・暖かい年は植生活動が活発ですが、大気CO2濃度は低くなっていません。大気CO2濃度が増えています。 ・この結果はバローにおける結果とは逆ですが、おそらくグローバルスケールでみると、温暖な年には土壌呼吸による放出が大きくなっていると考えています。 ・近藤はその後深掘りをしていませんが、最近の研究成果を知っていたら教えてください。 |
50 | ![]() |
・ここでは、扱う空間スケールと時間スケールを意識して解析を行うことの重要性を述べました。 ・自然現象を扱うときは、ニュートン・デカルト的科学としてノイズを消し、普遍的な原理を抽出しようとすると案外うまくいかないこともあります。 ・複雑なものを、複雑のまま捉えるという態度も、環境を扱う科学として重要です。 |
51 | ![]() |
・植生の分布を説明しようとする試みは古典的な課題です。 |
52 | ![]() |
・気候変動のもとで植生分布がどう変わるか、という研究はたくさんあります。 ・しかし、定常を仮定して、一定の気候条件に対応した植生を割り当てるモデルは、もう古いように思います。 ・植生と気候の相互作用を、土地の性質を考慮し、時間軸で非定常の現象として捉える研究はあるでしょうか。 ・グローバルスケールではそこまでやることの意義が弱まると近藤は考えています。 |
53 | ![]() |
・よりローカルスケールで気候変動に伴う植生の応答を、地域性を取り入れながら非定常で扱うことができたらすばらしい研究になるなと思います。 |
54 | ![]() |
・これも古くなってしまいました。最新の証拠はIPCCの報告書にあると思います。 |
55 | ![]() |
・いろいろな状況証拠が集まりつつありますが、植生や動物の分布が変わることの本質的な意味を考え続けることも必要だと思います。 ・倫理的、哲学的、文学的、心理的、文明論的、様々な意味づけができると思います。 ・ここまで考えなければいけない時代がやってきたのではないか、そんな気がします。 ・それは、理系の研究者が理系の研究者でいられなくなる時代といえましょう。 |
56 | ![]() |
・これも古くなってしまいました。 ・今はパリ協定の時代です。京都議定書からパリ協定への変化は、トップダウンからボトムアップの時代への変化といえます。 ・でも、そのボトムアップの精神を支えるのは理想を重視するヨーロッパ思想のような気もします。 ・日本は現実的思考の中で、支持を失っているように見えますが、それは間違いではない。もっと主張して議論する必要があると思います。 |